第2章 大人を殺せば この国で生きていけなくなるぞ 大人狩り事件編

コロブ暦993年12月20日 独立國建国まで あと5ヶ月

第十話 フウコのパーティは変わり者だらけなんですが





「じ〜んせい 楽ありゃ 雲あるさ♪」



 フウコはのんきにそんな歌を唄いながら街道を歩いていた。

 確かに蒼天にはたくさんの雲が自由きままに流れている。冬の陽気にしては珍しく晴れ渡っている。

 寒さを和らげてくれる日差しが心地良い。



「お兄ちゃん。その歌、微妙に違うです」



 そう言ったのは、奇抜な服装――ロリータファッションに身を包んだ可愛い幼女であった。



「ん?そうか?親父がよく歌ってたんだが……ヒニュンはこの歌を知ってるのか?」



「う~ん、よくは知らないですけど、ボクが作詞するなら、雲じゃなくて、『楽』の対義語で『苦』を持ってきて、『苦もあるさ』にするです」



「なるほどなぁ。そう言われればそんな気もするな。さすがだな、ヒニュンはえらい!」

 

 そう言って、ヒニュンと呼ばれた幼女の頭をフウコは撫でた。


「ふにゅ~。お兄ちゃんに褒められちゃったです!お兄ちゃんの手は優しいから好きです~」

 

 この幼女はフウコをお兄ちゃんと呼んでいるが、フウコの外見も女の子である。

 どう見ても、仲の良い姉妹が街道を並んで歩いているようにしか見えない。



フウコたちは、エデンから園門ゲイトを通って150ダリム(約140㌔)離れた大陸の西に位置するカペナウムの都まで一瞬で飛んだ。

 

 それからさらに南に20ダリム(約18㌔)離れたレキサントラの街に向かって徒歩で移動していた。

 ケンザイであれば馬車に乗れるが、フウコたちはワカツであった。

 ケンザイなのは、ヒニュンだけである。

 

 一向は全部で5人。少女が3人、青年が1人、美少女のような男が1人である。



 朝から歩き続けて、そろそろ疲れが見え始める頃合いだった。


「ねぇ~、フウたん。お腹空いたにゃ〜」


「―マーユ。おまえが手に持っているそれはなんだ?俺にはパンに見えるんだが、気のせいか?」



「え〜、パンはおやつだよ。バナナと一緒だよ~。やっぱりご飯でしょ!お米食べたいにゃ~」


 マーユと呼ばれた小柄な少女は、そう言いながら、頭に付いている猫耳をピクピクと動かした。

 

 彼女が人外生物、猫耳族に属しているわけではない。

 歴とした人間である。猫耳はつけ耳であった。

 

 フウコにはその仕組みは分からないが、創感石ウリムに反応させて動かす創具リアナであることだけは知っていた。



「姉さん我慢してください。あと2時間ほどで到着するはずですから」



抑揚のない声でそう言ったのは、緑色やら茶色やらで迷彩を施した風変わりな服を着ている少女であった。

 

 地図と方位磁石を駆使して現在地を歩きながらいとも簡単に割り出して答えた。

 

 旅慣れているというよりは、明らかに特殊な技能を身につけているようである。


「あと2時間かぁ。ちょうどお昼の時間だね。何を食べようかにゃ~」

 

 相変わらず猫耳をピクピク動かしながら、子猫のようなマーユが陽気に答えた。

 初対面であれば、誰もがこの猫耳少女が妹で迷彩服少女のほうが姉だと思うだろう。


 しかし、実際は、妹のほうが二倍近く大きくて、姉が幼女のように見えるのだから面白い。

まだまだこの姉妹と付き合いが浅いフウコは、そんなことを考えながら歩いていた。




「おい、なぜレキサントラにあると分かるのだ」


 ぶっきら背の高い妹が唐突にフウコに言った。


「イリヤは探師と一緒に旅するのは初めてなのか?」


 イリヤと呼ばれた妹はうなずくことで返事とした。


「それはな――こいつがそうだと言っている」


フウコは二本の鉄の棒を取り出した。

 

 その二本の棒は、持つところから直角に曲がっていて、両手にそれぞれ持って使うらしい。

 不思議なことに、二本の棒の先端を近づけると、反発するような動きを見せる。

 その棒の先端が指し示す方向が、ちょうど、一行が向かっている先を指していた。


「そしてボクの占いでもレキサントラと出たです~」


ヒニュンが得意げに答えた。


「そしてもう一つ。シフティの情報収集の結果もレキサントラとでた。な、シフティ?」


 フウコが一番後ろを黙々と歩いている背の高い細身の男性に会話を振ると、彼は落ち着いた声で短く、はい、とだけ答えた。



「分からない。本当にその街に姉さんと同じように三種の神器さんしゅのじんぎを持つ者がいるというのか?」



――無理もない。


得たいの知れない鉄の棒と幼い少女の占いと寡黙な男による情報収集の結果によって目的地が決められているのだから――不安に思うのも当然だった。




「まぁ、そのうち分かるさ。俺たち探師たんしはそうやって今まで人や物を探してきたんだ」


 フウコはあくまでのんきである。



「ふん!どうせ、わたしたちもそうやってみつけたんでしょ。信じるしかないじゃない」


 愚痴るようにイリヤが答えた。




 それっきり、再び寡黙な時間が続いた。


 あと一週間もすれば年が暮れる。

 行き交う荷馬車も足早に通り過ぎていく。

 そんな年の瀬の探索旅行である。



 フウコを始め、一行の誰もが早く目的達成してエデンでゆっくり正月を迎えたいと思っていた。



しかし、思いどおりいかないのが旅の醍醐味でもあるのだった。


 




 レキサントラの街には、イリヤの正確な測量のとおり2時間後に到着した。


 宿屋で荷物を部屋に押し込み、一行はこの街に来たことのあるというマーユのオススメの店で昼食にすることにした。




 しかし、一行は【マーユのオススメ】ということにもっと気を配るべきだったと後悔することになるのだった。




「おかえりなさいませ、お嬢様!」



 店に入るとメイド服に身を包んだ少女たちが一斉にお辞儀をして一行を出迎えた。

ここはメイド食堂であった。


 フウコは入るなり帰ろうとした。

それに倣うようにシフティも無言で回れ右をする。

 

 しかし、時すでに遅しであった。

「5名様ご案内にゃ〜!ほらぁ、フウたんこっちこっち」


 マーユはどんどんと中に入って行き、【予約済】の札が置いてあるテーブルに座る。


 どうやら、MARIAを使って予約していたらしい。

 こういうところは抜け目がないのがマーユである。




 フウコとシフティは諦め、ヒニュンは始めての体験に胸踊らせ、イリヤもマーユと通い慣れているのか平然としていた。



 一向は全員女性だと思われたに違いない。


 唯一の男性であるシフティは、旅装を解き、ゆったりとしたローブに着替えていた。

 すらっとした長身で背中まで伸びた亜麻色の長髪、端正な顔立ちをしている。

 黙っていれば気品あふれる女性そのものだった。

いつも瞑想しているように目を閉じていて意識して気配を消している。

 そして、まるで影のようにフウコに付き従っているため、その美貌にもかかわらず、ほとんど目立たない。


昼の十二時を回り、店内は忙しさの極みにあった。

 席はほぼ満席。

 客層も大人がほとんどだが、中には子どもの姿も見受けられる。

 

 仕事の昼休みに、ひとときの安らぎを求めて来ているのだろう。

 


 みんな楽しそうであった。

 こういう雰囲気は悪くない、とフウコは思った。

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