第五話 七条の少年抑制法案と身分制度
「まぁ、まぁ。答えを急ぐ前に、現状の確認をしませんか?今、わたしたちの周りがどうなっているのか。それがもう少し見えてくれば、お姉様のお気持ちも変わってくるはずです」
さすがは交渉ごとになれた商人である。話しの流れを絶妙なタイミングで変えてくる。
「カナン様。王都の
「昨年、エライジャ
「そうなれば、
ニーフェイは右手の拳で自分の左の手のひらを叩いた。
「なぁ、いまさらなんだけど、少年抑制法案ってどんなやつだっけ?」
フウコが授業についていけない生徒のように、ばつの悪そうな顔している。
「あほか貴様は!今さら何を言っているんだ。5歳の子どもでも知っているぞ。いいか、今から衆話で送ってやる。よく読んでおけ!」
そう言ってマスキールは、宿題を忘れた友人にノートを見せるかのように、衆話で少年抑制法案の簡単な説明書きをフウコに送った。
「わりい、わりい」
フウコは頭を掻きながら、左手の
少年抑制法案
第1条
子供は大人を敬い、大人の命令を遵守する。
第2条
子供は身分制度に従い、その違いを明確にする。
第3条
子供同士の争乱は、双方死刑とする。
第4条
大人の許可なく無断で
第5条
第6条
教会は王都エノスと保育都市エデンにのみ設置する。
第7条
少年抑制法案は7条の基本法案があり、それにそれぞれ詳細が付随し、身分によっては特例が存在する。
「それだけではないんですよ……
練界に誰よりも詳しく、練界の恩恵を受けて今の力を手に入れてきたチグリにとっては他人事ではない。
「そして、何もかもが身分の高いケンザイが優先されますから、身分制度による能力格差はますます広がると思います……ワカツやリジェクトは今よりももっと見下され、ケンザイは特権階級としての意味合いが強くなります……」
サイオンは横目でマスキールを盗み見た。
それが伝わったのか分からないが、マスキールが言った。
「それのどこが悪いのだ。いいではないか!ケンザイは親によって選ばれた特別な存在。親に見放された子どもはどこかに欠陥があるのだ!そういう者に能力を与えれば、ろくなことに使わない。当然の結果だ」
真っ先に反応したのは、ニーフェイだった。
「なんだと、てめぇ!
そう言って、マスキールの胸倉をつかんで締め上げる。
「こ、子どもがしっかりしていれば、親は離婚しない。ほとんどの親は働かない。子どもが働き、賃金を親に納めてさえいれば、
ヒョロヒョロしたマスキールの身体は、
「やめろ、ニーフ。マスキールの言うことは正しい。
フウコがそう言うと、ニーフェイはマスキールを解放した。
この国の子どもには身分制度があり、将来はほとんどその身分で決まる。
父親、母親が共に揃っている子どもを【ケンザイ】と呼ぶ。
また、親が離婚している子どもは【ワカツ】と呼ばれ、
母親が子どもを引き取った場合は【エヴァ】、
父親が引き取った場合は【アダム】の接尾語が付く。
そして、どちらの親も引き取らなかった場合、その子は学園という保護施設に預けられ【リジェクト】と呼ばれるのである。
この身分制度はコロブ歴986年に現国王ノアによって制定されたもので、施行されてまだ7年しか経っていない。
それでも、子どもの間で身分制度による差別化は急速に広まっていった。
子どもには大人にない力がある。
すべての源は子どもたちの手の甲にある
この輝石があるおかげで、子どもたちは
それら神より与えられしチカラを駆使して、子どもは大人の代わりに労働を行う。
そして、その賃金を保護者である大人に納める。
大人はそのお金で生活する。
そうして
【
『何を言っても無駄な存在、返事のない存在、
という意味である。
もちろん大人たちは自分たちのことを
それに対して、大人たちは子どもたちのことを【
『個々に逆らうことなく大人に付き
との意味が込められている。
どちらも発音は変わらず、どちらの文字を思い浮かべているかの違いでしかない。
文字にするときは当然ながら双方、配慮が必要になる。
「だけど、
フウコは丘から見える街並みを指差してそう言った。
「その律法だけは絶対に施行させるわけにはいかないわ!」
カナンが断固たる決意を表明する。
「だからフウちゃん。わたしたちと一緒に戦おう、ね?」
チグリが懇願するような目でフウコに言った。
「そこがおかしいだよ。なんでおまえらがやらなきゃならない?
おまえら――俺とサイオン以外はみんなケンザイじゃねぇか?」
誰もが沈黙をした。
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