夢のお告げ

 広い丘のような場所で私は一人で立っていたが、そこはあまりにも現実感がなく、一秒も経たずに私は夢を見ている事を理解した。広がる空は真っ黒な天井のように黒々としており、空と呼んでいいのか憚られる。街灯が点々と突き刺さっていて、三角錐の形に暗闇が切り取られている。足元は土や草ではなく、おもちゃや機械などがところ狭しと敷き詰められている。一歩足を進めるたびにそのガラクタ達が音を立てて崩れていき、まともに歩くのは困難だ。

 「ここは夢の墓場だ!!!!!!!!!!!!!!!」

 突然の大声に心臓を掴まれたように驚いてあたりを見渡した。声に呼応するように、足元のガラクタたちに一斉に電気が走り、光り出した。騒音が不快で耳を塞いで足元に目をやると、暗闇の中にガラクタの光が輪郭を作りあげていた。その光は遥遠くまで続いている。最初に広い丘だと思ったものは、広大なガラクタの山だったのだ。まるでゴミ山だ。ライトアップされたそのガラクタの丘には、さらに目を凝らすと私以外にも人間がいることに気が付いた。その人影は複数で、光と闇を混ぜるようにゆらゆらと揺れている。彼らは 何も言わずに踊り続けている。

 声の主は姿を現さず、そのまま続けて言った。

 「ここは夢のゴミ箱!あらゆる者たちが夢見たものの墓場。お前はもうすぐ生き埋めになって死んでしまうのだあ・・・」

 えっ、と思わず足元を見ると、数多のCDや楽譜に埋め尽くされた地面が崩れてその下からエレキギターが突き出してきていた。それを引っ張り上げると、タガが外れたように地面はなだれ落ちて小さな穴を作った。私はそこに体を半分埋めながら、必死に体を引き出そうと近くのガラクタたちに手を伸ばす。

 「・・・生き残るには、船頭を見つけて船に乗るしかない・・・」

 それを最後に声は聞こえなくなり、代わりに船の汽笛が響いた。音の先には黒い躰を引きずるようにゆっくりと進む巨大な船が見える。あれに乗らなければ。

 エレキギターを支えにして穴から抜け出し、私はなんとかその船に近づいた。しかし、船に近づけば近づくほど、その船は先ほど見た時よりずっと巨大で空を覆うほどになり、船は猛スピードでガラクタをかき分けて過ぎ去ってしまった。遠くなっていく船の尾を見つめながら、さっきの言葉を思い出した。まず船頭を見つけないといけないのだ。小さくなっていく船を凝視していると、突然、見つめていた船はガラクタの海に反射した方の船だったことに気付いた。私の世界は反対だ。反対の世界には月があった。ここは夜の街だ。ガラクタの光だと思っていたものは街の灯りだった。

 そこは街の真ん中だった。大きな道路の真ん中に立つ私を、周囲の人々はじっと見つめている。誰一人その表情はつかめない。一様に同じ仮面をつけているのだ。きっとこのどこかに船頭がいる。

 とにかくまずはと一番近くの人間に近づくと、急に後方の一人が歩き出し、瞬く間にその場の全員がこちらに向かって走り出した。私はあわてて走り出した。どこへ向かってでもなく、ただ特徴すら不明な「船頭」を探しながら、無言でこちらを追いかけてくる軍勢から逃れるために。

 街の店はどこも開いているが中には誰もいない。百貨店の自動ドアは反応しない。大通りでは走り疲れた瞬間終わるので、一人分の幅しかない路地に飛び込んだ。ぐちゃぐちゃな人間の群れが一列に整理される。汚い壁のビルを曲がり路地から抜けると、この仮面だらけの街で唯一「逃げている」人間を見つけた。いた!反射的に手を伸ばすが、それと同時に路地からどんどん飛び出してくる仮面たちが私を次々につかんだ。多くの手が私の腕を、肩を、頭を掴んで引き寄せる。必死に伸ばした手を振り上げると、私が追いかけた人間の仮面が外れた。その途端、私を追いかけていた人間たちも仮面を外しだした。私だ。全員私だ!

 そこはゴミ山の上だった。いや、夢のゴミ箱だったか。街の光だと思ったものは捨てられたガラクタたちの光だった。私はそこで踊っていた。自分で自分を追いかけまわすその姿は、傍から見ればくるくると踊り狂うような滑稽な姿であった。足元に埋まる古いラジオから、ぶつ切りの音声が流れている。

 「…ジジ…ここはブツッ…の墓場…あらゆる者たちがジジジ…まえは…んでしまうのだアー…ブッ」

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