雪と静寂
知らない間に山の深い所まで踏み込んでいた。誰も触れていない新雪が木々の間を埋めるように広がっている。人が踏み慣らして作った道は消え、山本来の輪郭を思い出させるように雪が覆っていた。
急に寒いと感じるようになった。歩いている間はむしろ熱いくらいで、服を脱いで雪の絨毯に体をうずめたいとまで思っていたのにだ。立ち止まって道なき道を認識したとたん、ハイになっていた頭から熱が冷めていくようだった。
進まないと、とにかく進むしかない…。そう思い続けてここまで来たが、振り返っても一体自分がどれだけ進んできたのか、あとどれほど進めばいいのか、全く見えないままだった。
一緒に山に入った仲間たちはいつの間にかいなくなっていた。しかし、そんなはずはない。同じペースで一本道を進んでいてはぐれるはずがないのだ。
でも実際に仲間はおらず、あたりの雪には自分一人分の足跡しかなかった。
大きく息を吸うと、冷たい空気が肺に流れ込んで気持ちが良い。雪にどこからか差し込む太陽の光が反射して、一面の銀世界を作り上げている。
先程までは途方に暮れていてわからなかったが、冷静に考えるとこの非現実感は、夢であると気が付いた。夢だと気付いたとたん、銀世界が急によそよそしく感じられた。徐々に太陽に雲が重なっていき、輝いていた白はモノクロ写真の白のように色を失っていった。
その時何の前触れもなく、背後の木に積もっていた雪の塊が落ちて、静寂を打ち破った。
思わず背筋がびくっと震えて振り返る。雪の重みを失った木の枝が不気味にゆらゆら、ゆらゆらとこちらを見つめて揺れている。
ついさっきまで自分を温かく受け入れてくれていたかのように見えた雪山は、実際の所全く受け入れてくれてなどいなかったのである。広大な雪景色の中に自分しかいない高揚感は、やがて疎外感と孤独へと変わった。彼らは…
彼らは一体どこへ行ったのだろう。どうしてはぐれてしまったのだろう。戻る道すらわからないこの世界で、私は急に泣き出したくなってしまった。
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