第20話 マンティコア討伐 下
一進一退の攻防が続く。
マンティコア達は警戒しながら仕掛けるタイミングを見計らっていた。
時折爪による斬撃や尾による攻撃を敢行するが、厩舎の狭い入り口ではその巨体が生かせない。
ゴモスにベルモア、そしてイスティリは繰り出される攻撃を捌きながら機会を伺っている様子だ。
「ええい! 埒が明かん! スゴネッド、聞こえるか! <稲妻>を詠唱せよ! 十数えてから吐き出すのだ! こちらからも合わせる!」
「はい! 『トリカゴ』様!」
トリカゴと呼ばれたマンティコアの首領は猫の鈴の様に顎下に鳥籠をぶら下げていた。
……余りにも似合わないアクセサリだな。
おっと! そんなことよりも!
「前後から稲妻が同時に来る!」
「み、皆さん中央に! <結界>を張ります」
「急げ!」
トリカゴの口から極大の<稲妻>が吐き出され、同時にスゴネッドと呼ばれたマンティコアからも<稲妻>が繰り出された。
俺たちは、ほぼ同時にハイレアにしがみつくようにして一つに固まった。
ハイレアが唱えた結界はギリギリ間に合った。
俺たちを包み込むように展開した結界は稲妻を凌ぎきり、それから砕け散った。
厩舎の内部に放電によるものか火が付き始める。
「ようし! 感電している奴を噛み殺せ! スゴネッド、行け!」
「はっ、トリカゴ様」
巨体が入り口に引っかかるが無理やりマンティコア一体が入り込んでくる。
「なっ……生きて……」
そこにベルモアの槍。
マンティコアの口内に無言で繰り出し、穂先はうなじ辺りから飛び出た。
俺は一計を案じ、小声で作戦を伝える。
「もう一匹呼び込む」
「出来るのか?」
「やらせてくれ」
「……わかった」
俺はスゴネッドの声色を少しでも真似ようと努力しながら大声を出した。
「ゴホッ。ゴホッ。煙が凄い! 喉が痛い! トリカゴ様! 全員噛み殺した!」
「よくやった!」
「仇を食べて溜飲を下げたい! だが燃えちまう!」
「ワグナ! 行ってやれ」
裏手からノコノコとやって来たワグナは入り口で少しつっかえた後、ハッと動きが止まる。
「わ……」
罠だ! とでも言おうとしたのだろうが、それは叶わなかった。
突進してきたベルモアの鬼神の突きが炸裂し、そのマンティコアは痙攣しながら倒れた。
残るマンティコアは三体。
真っ先に異変に気付いたのは裏手にいたマオアと呼ばれたマンティコアだ。
「父様! なにかおかし……」
そこにイスティリが強襲する。
ワグナの死体を踏み台にして裏口から素早く躍り出ると、マンティコアの肩口に斧を叩き付けた。
崩れ落ちるマンティコアの悲鳴を聞いて、そこでトリカゴが異変に感づき始めた。
「どうした! どうしたというのだ!? 何があったのだ!」
そして裏手に駆けて来てイスティリと対峙して始めて、自身の失策に気付いたのだ。
「おのれ!」
トリカゴはイスティリに挑みかかった。
「今だ!」
ゴモスの合図で表口から外に出る。
そこにはブルネと呼ばれたマンティコアが狼狽しながら指示を待っている様子だった。
「ハッ。馬鹿かこいつ? 指示も無きゃあ動けないのか!」
ベルモアがあっさりと片付ける。
ゴモスはそれを横目に見ながら厩舎の後方に駆けて行った。
俺たちもそちらに向かう。
そこではイスティリとトリカゴが熾烈な戦いを繰り広げていた。
トリカゴは飛び跳ねながらイスティリの斧を避ける。
隙を突いて口から稲妻を吐き出すが、それはイスティリには当たらない。
稲妻の合間に蠍の尾を差し込み、蠍の尾で攻撃している合間に詠唱を完成させる。
時折叩き付ける様な薙ぎ払いが来て間合いとタイミングを計る。
その繰り返しの中で、イスティリは正確にトリカゴの攻撃を見極め、最適な方法で回避していた。
「援護する!」
ゴモスも突っ込む。
トリカゴは自分の不利を悟った様子だった。
彼は大きく後方にジャンプし距離を取ると、顎下に付けている鳥籠に囁き始めた。
「さあ、籠の中の鳥よ? いつもの様に幻視を見せよ! 我に未来を見せよ! この状況を打破する最善策を教えるのだ!」
「代価を」
「この厩舎の下には秘匿されたダンジョンがあるのだ! そこでの財宝を半分与えよう!」
「断る。手に入れてもいない財宝に何の価値も無い」
「な……」
トリカゴの動揺をイスティリは見逃さなかった。
素早くトリカゴの側面を取ると蠍の尾に狙いを定め、付け根から切断する。
「ごぁぁ! ……鳥よ! 鳥よ! 死にたくなければ我に従え! お前を籠ごと地面に叩き付ける事など造作もないのだぞ!」
「ハ・ハ・ハ! 何とも無様よのう。次は何を見せてくれるんだ? 命乞いでもしてみるか?」
「貴様ぁ!」
「甘い蜜だけを吸い続ける夢は楽しかったか? ハ・ハ・ハ! 重ねて言うぞ! 無様この上ないわ!」
「こっ……」
トリカゴが何かを言おうとしたその時、ベルモアが遠くから槍を投げた。
不意を突かれたトリカゴは槍を避けきれず、こめかみを刺し貫かれて絶命したのだった。
「ハッ。最初から打って出ても勝てたんじゃねーか?」
ベルモアがこちらに走ってきてそう言った。
「いや、連携が取れるマンティコア六体を遮蔽物なしでは無理だっただろ?例え勝てたとしても何人かは死んでる」
「そんなもんかねぇ」
「そうさ。何よりも……セイ」
「はい」
「本当に素晴らしい援護だった。的確な現状把握、そしてあの稲妻を無傷でやり過ごせたのは本当に助かった」
「ありがとうございます」
「マンティコアは自分達の言葉が理解されているとは露とも知らず死んでいっただろうな」
そうですね、そう言おうとした時、真横にイスティリが来ておでこを差し出した。
「ボクも頑張りました!」
俺がイスティリの頭を優しく撫でてやると、彼女はキシシッと笑ってからベルモアの所へ行った。
「ハッ。俺様も頑張ったぜ! ……おおっと、別に撫でて欲しいわけじゃないぜ?」
いや、誰もお前を優しく撫でたりしないだろ!
そこ動揺する所じゃないから。
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