第19話 マンティコア討伐 中
俺は「マンティコア語が出来る」とハッタリをかました。
それが吉と出るか凶とでるかは分からない。
ただ≪完璧言語≫さえあれば多少の無理は通るだろうと踏んで賭けに出た。
「マンティコア語が出来る奴なんて聞いたことないぜ。確かに<言語理解>を使えば意思疎通は可能なんだからありえなくはないが……とにかく明日お前も来てくれ!」
俺の賭けに勝ち、マンティコア討伐に参加することになった。
翌日、冒険者ギルドに行って見ると、マンティコア討伐に参加する人物達には最近見知った顔がチラホラ居た。
というか知らないのは一人だけだったのだ。
ゴモスは勿論、豹娘ことベルモア、それにハイレア、後は盗賊ギルドから支援に来たという三級<盗賊>のハリファー。
ハリファーは五十絡みの痩せたヒューマンだ。
ハイレアが居ることに少し驚いたが、ゴモスが、「何だ知り合いだったのか」と言った。
「ハッ。あんた達も来るのか! そっちの魔族はともかく、ご主人様はどれくらい強いんだ?」
「剣に触ったこともないよ」
「ハッ。冗談きついぜ」
なぜか豹娘は俺に耳打ちしに来た。
「ハイ一族はな、地元の名士なのさ。その中でもレア嬢ちゃんは特別待遇。ハク付ける為に難易度の高い依頼には必ず同行するんだ」
ベルモアは余りハイレアに良い感情を持っていないようだった。
「ど、どうも。ええっと? 兄さんのお知り合いの方」
そういや名前名乗って無かったね。
俺とイスティリは自己紹介してから、またハイコラスさんを交えて食事でもと伝えた。
何故かイスティリが少しむくれた。
そうして俺たち六人は、その日マンティコア討伐の為、昼過ぎに厩舎に到着した。
夜半に現れるマンティコアに対して事前に打ち合わせをし、罠を張り、出来れば生け捕りにする、という作戦だったのだ。
そこで運悪く一体のマンティコアと鉢合わせてしまった。
「罠を張る前に遭遇とかありえねぇ」
罠を仕掛けるために同行した盗賊のハリファーがこぼす。
そうしている内に、マンティコアは雄叫びをあげると俺たちに突進してきたのだ。
「ハイレアとセイは後方に下がれ! 俺とベルモアで撃って出る! イスティリは援護だ」
「出番だ!」「はい」「わ、分かった」「おうよ!」「任せて!」
即座に反応し、ゴモスが指示を飛ばす。
ハリファーには特に指示が無かったが、俺とイスティリの間辺りでクロスボウの矢を装填し始めていた。
ベルモアがナイフを飛ばす。
それはマンティコアの額に当たり、皮膚が大きく裂けて血が吹き出る。
マンティコアはベルモア目掛けて体当たりするが、彼女は余裕を持って避けてから左側面に回り込みマンティコアの腹に槍を突き刺す。
「ぐぉう!」
マンティコアは右前足をベルモアに振り下ろし、即座に噛み付き、そして毒を持った蠍の尾で死角から強襲する。
「ハッ。見え見えだよ、ハゲ!」
ベルモアはその攻撃全てを回避すると浅い突きを素早く二度三度と放つ。
最初の一撃に比べれば僅かにしかマンティコアの身体は傷付けないが、それはゴモスとの連携だ。
ゴモスがマンティコアの右前面から斧を横一文字に振り抜き、ベルモアに集中し回避が遅れたマンティコアの右頬から首筋を切り裂き、斧は右肩にめり込むように止まる。
「いてぇ……いてぇ……父ちゃん! 父ちゃーん」
俺にだけ聞こえる明確な言葉。
バランスを失ったマンティコアは崩れ落ちながら弱音を吐いていた。
「おい! 父親を呼んでいる!」
「なんだと! まだ居るのか!」
俺の言葉にゴモスが応える。
ベルモアは戦意を失いつつあるマンティコアの首筋に渾身の槍を突き刺し、息の根を止めていた。
そこに奥の林からマンティコアが飛び出してきた。数は一……二……三・四・五……六体!?
「いかん! 数が多すぎる」
「えっ!? 逃げようぜ!」
ハリファーはそう言うなり脱兎の如く逃げようとしたが、マンティコアは連携を取りながら包囲網を完成させていく。
「一旦厩舎に引く。出入り口で防衛戦だ」
ゴモスが手短に言うと少しずつ下がりながらまずは俺とハイレア、ハリファーが厩舎の中に入る。
厩舎の中には馬は居らず、その代わりに罠用に持ってきたワイヤーとトラバサミが置いてあった。
「罠を張っても七匹とか無理に決まってんじゃん」
ハリファーが愚痴る。
「愚痴っても始まらん。こっちは俺とベルモアで捌く。裏手はイスティリとハリファーで塞げ! ハイレアは援護魔法を! セイはマンティコアの言葉を出来るだけ読み取れ!」
厩舎を通してでも明瞭に聞こえるマンティコアの大声。
「マモア、モドクは左から回り込んで後方の出入り口を塞げ! 退路を絶つのだ!」
「はっ!」
「同様にワグナは厩舎の左側面より敵の出方を伺え! スゴネッドは右側面だ!」
「はっ!」
「ブルネは俺に続け! 急げ!」
「はいっ」
矢継ぎ早に指示を出し、厩舎の周りを取り囲む様子が伺える。これで縦に長い厩舎と正確に包囲するつもりなのだろう。
俺は大急ぎで皆に伝える。
「正面二体! 指示を出した頭がそっちだ! 後方に二! 左右側面に一体ずつ!」
「でかした! ハイレアは後方! イスティリとハリファーを支援。後ろが片付くまで俺たちは防戦に徹する。まずは数を減らせ!」
「はいっ」「分かった!」「し……しかたねぇな」
正面のマンティコア二体はゴモスとベルモアを威嚇しながらじりじりと押したり引いたりしている。
流石に包囲したは良いが、入り口は狭く攻めあぐねているようだ。
裏手の方は……と見てみるとイスティリが突進してきたマンティコアの脳天をカチ割った所だった。
脳漿を飛び散らせ、そのまま地面に倒れ伏すマンティコア。
「父様! モドクがやられた!」
「莫迦め! 勇みよったな。スゴネッドは援護に向かえ!」
マンティコアに臆せず立ち向かうイスティリと、宝飾を欲しがって可愛い言い訳を考える彼女が同一人物だとは思えない、と思いつつもまずは動きを伝えなければ! と必死になった。
「イスティリが一体撃破。右側面の奴が後方に向かう!」
「流石だな。俺様に土をつけさせただけの事はあるぜ。ゴモス、こっちも打って出ようぜ!」
「駄目だ。戦力とは数だ。後方で均衡を崩せるうちは崩すべきだ」
「ハッ。お前の冷静さが時々嫌になるぜ」
後五体。
俺たちはマンティコア達の包囲を無事抜けることができるのだろうか。
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