第18話 マンティコア討伐 上
俺たちはハイコラスらと楽しい(?)食事をしてから帰路に着いた。
岩石採掘亭に戻るとゴスゴは客引きに出ていたが、マグさんが居たので早速声を掛ける。
「あれあれ、まあまあ。可愛らしくなっちゃって! 綺麗な服買ってもらったんだねえ」
「うん! 全部セイ様が買ってくれたんだよ。それと……はい、これ! セイ様がマグさんの為に選んだんだ」
イスティリはマグさんにと買ったピアスを手渡した。
「色々と気遣って頂きましたので、ささやかではありますがお礼です」
俺もそう伝えると彼女は大変喜んでくれて早速ピアスを付けてくれる。
「あらあら、こんなおばあちゃんにピアス買ってくれるのに、お嬢ちゃんには光物、何にも買ってくれなかったの?」
「あ、明日買ってもらうんです!」
「そうなの? 良かったわねえ。本当にありがとうね。じゃあ張り切ってお仕事してきます」
おいおい、イスティリちゃん?
「セイ様。ボクは嘘をつきたくありません」
くるりと俺に振り返り、その必死に考えたらしいセリフが可笑しくって笑ってしまった。
俺はついついイスティリに明日な、と約束してしまった。
彼女は顔を真っ赤にして飛び跳ねながら二階に上がっていった。
(うふふ。わたくしにも可愛らしい何かを買って下さいね)
「セラ、君もか」
セラには性別がないはずなのだが、言葉遣いといい柔らかい物腰といい、いつも女性だと錯覚してしまいそうになる。
というか俺は女性だと認識していた。
それでも装飾を欲しがったのは以外だった。
(わたくしは……身体に巻きつける金のチェーンが良いです)
「セラが何かを欲しがったのって初めてだね。よし、明日は奮発するぞ」
(ありがとうございます。でもセイ、そろそろ働かないとお金、なくなっちゃいますよ?)
現実を突きつけてくれるセラさんであった。
「所でセラ」
(はい?)
「何かこっちの言葉が分かる様になってきたのかな、と時々思うんだけど」
(言葉は少し理解できるようになって来ました。それが嬉しくって嬉しくってゴキゲンさんなのです。うふふ)
なるほど、セラはポケットに入りながらも外の声を聞いて学んでいたのかな。
ただ残念なのは、セラ自身はどう転んでも話すことができない所だよな。
二階に上がるとイスティリが床で子犬の様に丸くなって寝ていた。
どうやら俺の為にベッドを空けてくれている様だったが、そっと抱き抱えてベッドに移し、俺はナーガの店で買った毛布を取り出してきて壁にもたれかかって寝た。
夜半にトイレに起きた彼女は、戻ってくるなりベッドの毛布を引っつかんで俺の横で寝始めた。
信じられない程に懐いてしまったな、と思いながらも俺もまた眠りに落ちた。
翌日、俺たちはまた街に繰り出した。
ちょっと洒落た宝飾店に飛び込んで、イスティリには額に巻く金の鎖を買い、鎖に一粒綺麗な青い宝石をあつらえてもらう。
彼女は喜んで飛び跳ね、金鎖がシャラシャラと鳴った。
セラは何とフワフワ浮いて店内を見て回り店主の度肝を抜いていた。
「こ……この空飛ぶ宝石はいったい? お……お客様! 是非とも譲ってくださいませ!」
「本人に聞いてみなよ」
店主は真剣に口説くが、セラは商品を選ぶのに必死で完全にスルーされていた。
そうして店主を引き連れて店内を一巡りした後、木の葉をあしらった金の鎖の前でチョン・チョンと上下した。
(わたくし、これにします)
俺はその鎖をセラに巻きつけてやる。
するとセラの内側にスーッと鎖が沈んでいき、鎖はさしずめ生き物の様にセラの体内を巡り始めた。
「よく似合うよ」
(うふふ。ありがとうございます)
しかしセラにとってあの状態が、「体に巻きつける」になるのかな? そこは疑問だったが喜んでいるのでよしとしよう。
店主はセラにフられたショックから立ち直れず店を出るまで咽び泣いていた。
店を出てすぐにイスティリが、「あっ」と声を上げる。
丁度正面の店に昨日冒険者ギルドで出会った巨漢の斧使いが入店していく所だったのだ。
イスティリの声で俺たちに気付いた巨漢は軽く手を振ってから、そのまま店に入っていってしまった。
俺たちも後を追って店内に入ってみるとそこは武器屋であるらしく、剣や槍などの武具が壁にフックで架けてあった。
「よう。お前ら」
「こんにちは。ええっとゴモスさんでしたよね?」
「まあな。正しくはゴモスレイモスだ。長いからゴモスで切ってんだ」
「そうでしたか」
お前らも俺の事はゴモスで良いぜ、と言った後、彼は砥石を買って包んで貰っていた。
「明日マンティコア討伐があるからな。自慢の斧を研いでおくのさ」
「マンティコア?」
【解。獅子の体躯に人に似た顔、蠍の尾をもつ獣。人並みの知能があり魔法も使う】
「あーっ。マンティコア。ボクも戦闘訓練で何度も戦ったよ!」
「そうか。ならマンティコアはお手の物か」
「うん! 勝つまでご飯抜きだったからね。もう必死に攻略した!」
さすが元魔王候補。
彼らの日常が垣間見える。
「どうだ? お前もマンティコア討伐に来んか? はぐれ者が厩舎を荒らしてるらしく討伐の依頼が来てんだ。報酬もあるぞ」
「セイ様が良いって言うなら!」
「そうだな。ゴモスさんには斧の借りもあるし、行って見るか」
「よしきた。話を通しておくぜ。慣れてる奴入れると危険度がグンと下がるからな」
トントン拍子に話が進み、明日の昼に冒険者ギルドで待ち合わせることになった。
「所でセイだっけ? お前は何ができるんだ。何もできないなら来ても報酬の分配には参加できないが?」
「ん?ああ……俺はマンティコア語が出来るよ」
「なんだ、魔術師だったのか。という事は<付与>系か<理解>系か」
「いや、純粋にマンティコア語ができるんだよ」
「……まじかよ」
表情の少ないのゴモスの顔が初めて当惑で崩れた。
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