第14話 冒険者ギルド ②
イスティリはしぶしぶといった体でテーブルにプレートを差し出す。
そのプレートの上にメロウさんがペンを置いた。どうやら体重の欄を隠してくれたらしく、イスティリは感激していた。
◇イスティリ 十四歳◇
種族:ハーフドワーフ/魔族
性別:女性
筋力:49
知力:12
機敏:12
体力:32
身長:144cm
体重:*******************
目の色:金色
髪の色:黒
称号:<魔王の雛><攻城兵器の申し子><武具の神童><技巧の匠><魔斧使い><兵站を理解せし者><巣を失った竜><誇り高き風><茨の道を歩む乙女><復讐を誓う虎><はぐれ魔族><異邦人の守護者>
うーん……筋力が俺の4倍あるんですけどこの子。
種族的にはハーフドワーフかつ魔族なんだろうか。
しかも称号が多い……俺が二個だったのに対して彼女は十二個もあった。
しかし、称号って「客観的に数値化」とは言えないよな。
その人の生き様みたいなモノが垣間見える気がする。
「おおーい! 皆さん! 大丈夫そうだ! 各自自由にしてくださって結構です」
メロウさんが大声を上げると、暗がりに居た者も明るい場所に出てきて椅子に座りだした。
何のことだろう? と思っていると彼がタネ明かしをし始めた。
「申し訳ありません。能力は客観的に数値化されるのですが、実はこのカードのキモは実は<称号>の方なのです」
「称号?」
「ええ。称号はその人となりを表す鏡の様なものです。その人物を見極める上で重要な意味を持つのです」
「つまりは称号でその人を判断する、と」
「簡単に言いますとその通りです。ですのでセイ様、イスティリ様に例えば<殺人者><放火魔><強盗><戦闘狂>といった称号が出現すればここにいる全員で対処して即捕縛、しかるべき対応を行うという取り決めがあるのです」
「なるほど、少し分かった。能力を数値化しても身分証になる訳ないよな。その称号が身分を保証するのか」
「はい。ご理解が早くて助かります」
騙された、という感覚は無かった。
タネが割れていたら危険因子の炙り出しにもならないしな。
「唯一注視したのがイスティリ様の<復讐を誓う虎>なのですが、あくまで復讐を完遂した殺人者ではなく誓いを立てただけ。そして虎は単独であることを表しています。つまりは共に復讐を誓う仲間が居ない状態ですので、危険度は大変低く捕縛対象ではございません」
「ボクは、復讐できる機会があれば……とは思うけど、今はセイ様の隣がいいです!」
「もしイスティリ様が復讐を選択したならば、というのは今は考えないでおきますよ。それにしても魔王種にここまで懐かれた方を見るのは初めてです、セイ様」
しかし明確な敵対種族であるはずの魔王種でもごく普通に会話が成立してるよな、この世界の人ら。
気になったのでイスティリが気分を害さないようこっそりメロウさんに聞いてみる。
「ネストを失った時点でどっちに組するかは魔王種の自由ですからね。普通は魔王に組しますがネストを失った魔王種は冷遇される傾向にあるので。人間側に組して武功をあげた者が貴族になった例もありますよ」
「結構緩いんだな。魔王種だから即殺す! とかじゃなくて俺はありがたい話なんだけどさ」
「ははは。魔王側で冷遇されるイスティリ様の危険度は低いでしょう、けれども人間側に付いた時のイスティリ様は……そう考えると理解できるかもしれません」
「うーん。理解できるようなできないような」
とは言えギルド・カードも作ったし、あとはイスティリの呪紋を解除したら帰るか、と思っているとメロウさんが俺の称号について語りだした。
「セイ様の称号<魔王種の庇護者>は読んで字の如くでしょうから特に説明の必要はないでしょう。ですが<波紋>はかなり特異な称号ですね。滅多に出ません」
「そうなのか」
「ええ。<波紋>は世界に変化をもたらそうとする者に現れる称号です。セイ様がこれからどの様になさるのかは知る由もございませんが、その変化が良い方向に向かう事を期待しております」
「俺はこの世界を翻弄する大きな津波にならなきゃいけないんだがなぁ……」
「ははは。そりゃまた大きく出ましたね!」
俺はこの世界に対しての<波紋>
そう、まだ波紋にしかすぎないのだ。
……まだまだ先は長い。
「さて。後は……こらイスティリ。どこに行こうとしてるんだ?」
「えー。やっぱり呪紋解除しちゃうの?」
俺はコッソリ逃げようとしていたイスティリに釘をさした。
そうしてからメロウさんに呪紋を解除したいので人を斡旋してくれるように頼む。
「え? イスティリ様、奴隷階級なんですか! いやいやいや、まったくの自然体なので分かりませんでした。ではではちょっとお待ちください」
メロウさんが席を外している間に、またハイコラスがスススッと寄って来た。
「まいどまいど。俺っちの出番ってやつですか。呪紋外すならハイコラス。無料でいいよ」
「あれ? 冒険者カードがあれば各種割引って表看板に書いてあったから先にカード作ったのに無料?」
「お前さん文字読めんだろ」
「読んだのはイスティリだよ。言わせんな恥ずかしい」
どこの世界でも女の子はそういった言葉に敏感なのか、イスティリは安売り・値引き・見切り品・割引といった単語に凄く反応するのだ。
「俺っちのは特殊な魔法よ。誰かから魔法を奪って保管して別の誰かに売りつける。売る時に儲けが出るのさ。奪うときは抵抗されちゃ奪えない。だから無料」
「まあ俺にとっちゃありがたい話だな」
「そういうこと。だからあの女の子説得してちょ。明らかに『抵抗するぜっ』ってお顔してるよ」
両腕を組んでむくれっつらのイスティリは顔を真っ赤にして俺を見ていた。
俺は呪紋みたいなものは非人道的な拘束にしか思えないが、イスティリにとっては俺との繋がりなのか重要なのだろう。
「イスティリ、聞きなさい」
出来るだけ優しく、丁寧に説明する。
「俺はこれからも旅をする。その旅に奴隷は連れて行けない」
「はい」
「俺が必要としているのは、拘束されている奴隷では無く、自由意志で共に歩んでくれる仲間だ」
「仲間……」
「俺はこの世界で成すべき事がある。その為に必要なのは背中を預けられる仲間なんだ」
「はい」
「お前が呪紋の拘束を解かれた上で、その意思を示してくれるなら、仲間だ」
「ボクはセイ様と歩む……呪紋をはずして下さい」
イスティリの黄金色の瞳が爛々と輝き、その体からは蒼い炎が噴き出す。
蒼い炎は彼女の意思が見せる幻覚なのか。
ただその炎に焼かれて死ぬのならそれはそれで良いな、と思ったことは確かだ。
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