第13話 冒険者ギルド ①
俺たちは冒険者ギルドに到着した。
ギルドがある建物の門をくぐると大きく開けた庭があり、その先には結構大きな木造建築の洋館が建っていた。
庭では十人から十五人ほどの男女が居て、剣や槍の鍛錬したり草地で休憩したりと自由にしている様子だった。
俺たちを胡乱な目で見てくる者も居れば、完全に無視する者、興味はあるが無関心を装っている者と反応は千差万別だ。
ふと見渡すと先程まで槍の鍛錬をしていた直立するジャガーのような種族が俺たちに近寄ってくる。
掴んだ槍の柄を肩に乗せて、皮鎧を付け手甲に脛当てと割とガチの武装なのだが、そのジャガーが鼻にシワを寄せて来るのだから俺は嫌な予感しかしなかった。
「なんだ? おっさんにガキがここに何の用だ」
そのジャガーは女性のようだが、全く持って女性特有の柔らかさというものが無かった。
その上乱暴な言葉遣いなのだから堪ったものではない。
【解。ピアサーキン。乱暴で凶暴。決まった土地を持たず放浪している者が多い。主要十二部族ではない】
「なんだ風邪は治ったのか?」
【解。ハナから風邪など引いておらぬ。宿主の体調がフィードバックされただけである】
つまりは風邪を引いてたのは俺のほうか。
しかし乱暴で凶暴ってオブラート表現全く無しで逆に好感が持てる……そんな訳も無かった。
「あぁん? 何か言ったかコラ?」
豹娘はイチャモンをつけに来ただけのようだ。正直面倒なのでギルド・カードを作りに来ただけだ、と伝える。
イスティリはと言うとまったく動揺せず豹娘にガンを飛ばしていた。
これこれ「火に油」って言葉を知っているかい?
「ハッ、どうせ身分証代わりのゴミプレートだろ? 俺達の様に戦いもしなけりゃダンジョンを攻略する訳でもないクズどもめ」
「なんで初対面のアンタにそこまで言われなきゃならんのだ?」
俺もカチンと来てイスティリ同様ガンを付けて二対一で火花を飛ばし続けた。
そこに慌てて奥の洋館から男性が飛び出してくる。
「ちょっとちょっとちょっとぉ!! 何やってるんですかベルモアさん!! ここでの喧嘩はご法度と何度言ったら分かるんですか」
「喧嘩じゃねえよ。ゴミが来たから掃除しておこうと思っただけさ」
その言葉に数人が同調して笑い声を上げた。
なんだ? 冒険者ってもっとカッコイイ職業だと思ってたんだけどな。
「そうやって貴女が一般人を追い散らすからウチの収益が安定しないんでしょう!! いい加減にして下さい」
「ったく『冒険者』ギルドが一般人からのカネで安定しても意味無いだろ」
頭をガリガリと掻いて嫌そうな顔をする豹娘。
いいぞもっと言ってやれ。
「し……失礼しました。私、冒険者ギルド・ドゥア支部の職員メロウと申します」
職員のメロウさんは汗を拭きながら俺たちの方に向き直り愛想笑いを振りまいた。
彼は小太りで頭のてっぺんが幾分寂しい壮年のヒューマンだった。
豹娘は「白けたぜ」と言いながら庭の端に移動するとドカッと座り込んだ。
ようやく建物に入ると沢山のテーブルと丸椅子が置いてある大きなフロアで、奥まった位置に受付っぽいカウンターがあった。
採光窓が半数ほど綴じており、フロアにも十数人の男女が居る様子だったが、暗がりの為人数は把握できなかった。
「お待たせしました。ええっと本日はどの様なご用件で? ギルド・カード作成でしょうか。それともご依頼でしょうか」
メロウさんにギルド・カード作成を伝えると早速文庫本サイズの鉄のプレートを持ってきた。
「そちらのお嬢さんもお作りになりますか」
「ああ。支払いは一緒に頼めるかな」
「もちろんです。一枚につき1金貨ですので二枚先払いでお願いします」
以外に高いな。
色々と購入したツケが回ってきて、ミュシャが渡してくれた現金は正直に言うともう半分以上使ってしまっていた。
もしかすると冒険者として何か仕事でもしたほうが良いのかな……と考えてるとメロウさんが車輪付きの姿見をゴロゴロと押してきて俺たちの前に置いた。
「では、お一人ずつ鏡の前に立ってください。おおよその身体的特徴と、体力や知力と言った能力を客観的に数値化してくれます」
早速俺が鏡の前に立つと、鏡から緑色のバーが出て俺の足元から頭の先までスキャンするように移動した。
すると近くのテーブルに置かれていた鉄のプレートに、金属のペンが飛来しダ・ダ・ダ・ダと文字が刻み込まれていった。
覗き込んでみるが残念ながら俺には字が分からないので知りようが無かった。
続いてイスティリがスキャンされる。
打刻される文字が俺の倍以上あり、文字がミッチミチではみ出そうなプレートが出来上がった。
俺は「ステータス! オープン!」とか言ったら空中に液晶が出てくると思っていたフシがあったんだが、以外にアナログでプレートに打刻式であったのには少し落ち込んだ。
「ギルド・カードは鉄製ですが、作ってしまえば後は各地の冒険者ギルドで無料にて更新いたしますのでご安心下さい」
メロウさんはそう付け足した後、最後にお名前と年齢を、と聞いてくる。
手にはタガネとハンマーを持ってるので、手動で彫るのだろう。
俺は「セイ、二十六歳」と答え、イスティリは「イスティリ、十四歳」と答えた。
イスティリはなんと干支一周も違うのだ!
「しかし書いてある事が全く分からんのは難儀だな」
「え? セイ様は文字が読めないんですか?」
「うん。大抵の言葉は分かると思うんだけど文字はからっきしなんだ」
そこにスススッとローブを着た若い男が寄ってきた。
「良かったら<文字理解>を付与するけどどうだ? 銀貨1枚で半ザンだ」
少し高い気もするが興味のほうが勝った。
その<文字理解>を付与とやらをやってもらう。
「またぁ。もうハイコラスさん。そうやって小銭稼ぐためにここに居座るのやめてもらえませんかねぇ」
「まいど」
ハイコラスと呼ばれた男はまたスススッとどこかに消えていった。
早速俺は自分のプレートを見てみる事にした。
◇セイ 二十六歳◇
種族:ヒューマン
性別:男性
筋力:11
知力:13
機敏:11
体力:10
身長:174cm
体重:66kg
目の色:コゲ茶
髪の色:黒
称号:<波紋><魔王種の庇護者>
続いてイスティリのを覗き込んでみると、サッと隠してしまった。
「イスティリ、君のプレートも見せてよ?」
「……体重見ちゃダメですからね?」
隠した理由はそこなのか!
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