第5話 貴方は誰?

 途中まで開かれた扉は、次の瞬間ひとりでに左右に開ききった。ラ・ベルが足を踏み入れると屋敷へと続く道に設置された屋外灯に火が灯り道を照らす。鬱蒼と茂っていたはずの庭が炎に照らされ、整然とした美しい庭へと変わっていった。


「こりゃ、どういうことだ?」

 

 エクスたちもラ・ベルに続き屋敷までの道のりを行く。タオは綺麗に整備され、色とりどりの花が咲き誇る庭園を見渡しながら一人ごちる。


「油断は禁物よ。どんどんカオステラーの気配が近づいてくる…」


 レイナが意識を集中し歩みを速める。程なくして屋敷の扉の前に着く。身の丈の倍以上あるその扉の前には一人の少女が大きな剣を携えて佇んでいた。


「どういうこと?」

「これはこれは…言ってしまえばよくあることですけど」


 一行はその少女の姿を見て歩みを止めた。そこにいたのはだった。大剣を持つラ・ベルと、レイナたちといるラ・ベル。姿かたちそして


「ここへは来るなと言ったでしょ!!」


 同じ声音で叫ぶと、大剣を振り回しながら駆け出した。


「うわっあっぶないねぇ」


 ファムは瞬時にチェシャ猫にコネクトし、軽い身のこなしでラ・ベルの斬撃を交わす。大剣のラ・ベルは小さく舌打ちしながら口笛を鳴らす。するとどこからともなくヴィランが沸いてくる。


「このラ・ベルがカオステラーか!?」


 各々英雄にコネクトし、ヴィランと、か細い体からは想像できないほど身軽に大剣を振り回すラ・ベルと剣を交える。


「気配はするけど確実なものではないわ…やはりこの中にいる野獣がカオステラーかしら…まずはあのラ・ベルを何とかしないと!」


 アタッカーにコネクトし、ラ・ベルを守りながらレイナが叫ぶ。大剣のラ・ベルはレイナの後ろに隠れているラ・ベルを見つけると方向転換して駆け寄る。


「きゃっ」

「こんのぉ!!」


 レイナの細い剣が大剣に飛ばされ、その勢いでレイナ自身もよろめく。盾を無くしたラ・ベルが大剣を振り上げるラ・ベルと対峙した。

 先ほどの霧で記憶を無くしたラ・ベルは大剣のラ・ベルの瞳を見つめ、意識を取り戻したかのように、にっこり、いや、にやりと笑った。


「待った!」


 振り下ろされた大剣を硬い盾で受け止めそのまま押し返す。エイダが間一髪のところでラ・ベル同士の間に入った。大剣を押しやられたラ・ベルは地面に倒れこむ。


「ふう。間に合った。怪我はないか?」


 槍の沙悟浄のままエイダはラ・ベルの方を振り返った。しかし、そこにはラ・ベルはいなかった。


「ぐっ」


 代わりに大剣のラ・ベルが声を上げた。


「な、何をしている!」


 エイダとレイナは目の前の光景に唖然とした。


 ラ・ベルが、大剣のラ・ベルに剣を突き刺していた。腹部に深く刺さる剣を思い切り抜き、もう一度突き立てようとした時、レイナとエイダがラ・ベルを止めた。剣の抜かれた腹部からとめどなく血が溢れる。しかし咳き込みながら大剣のラ・ベルは起き上がり、屋敷へと走っていった。


「ベル、どういうことなの?どうしてこんなこと!」


 レイナはラ・ベルから剣を取り上げる。赤い鮮血が刀身を濡らし足元のレンガにしみ込んでいく。

 ラ・ベルは剣を持っていた手のひらを見つめながら、そして力なく瞼を伏せた。


「アレは偽物の私。あのヒトにとっても良くないモノ。私にとっても邪魔なモノ」


「それってどういう…」

「…真相はこの屋敷にあり。か」


 ヴィランを片付けた一同がラ・ベルと屋敷を交互にみた。


 

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