第4話 そして扉は開かれた

───




 記憶は運命の書を読めば蘇る。忘れていたことを思い出す。そんな要領で。そして、この想区の主役であるラ・ベルが思い出せば自ずとレイナたちもそれぞれに気持ちを取り戻していた。

 そして、気持ちも落ち着き、ラ・ベルの家で一晩過ごすと、一行はもう一度あの森へと向かった。


「今度はどんなことがあっても進むわよ!何時までもここで足止めを食らってちゃ敵わないわ」


 レイナの言葉に一同頷く。ラ・ベルはその誰よりも力強く、頷いた。


 空は昨日よりも雲が多く、あまり日の差さない森が更に気味悪く暗闇を落としている。ラ・ベルの迷いのない足取りを頼りに森の深部へと進む。何度かヴィランに遭遇したが進度は順調であった。そして、問題の地点へと戻ってきた。


「…今日はヴィランの気配もないな」

「また、霧が来たら?」

「それでも進むんだろ?…森の奥の野獣倒せば全て済むだろうし…あーすまねぇ」


 辺りを見回し、警戒しながら進む中で、タオの発言にラ・ベルが少しだけ反応した。野獣がカオステラーというのはあくまで仮であり、断言は禁物だった。


「ごめんなさい。気を使わせてますね…私も覚悟はしてるんです。この森にはあの人しかいないから。でも信じたくないのも事実です」


 ラ・ベルは儚げな笑みを浮かべた。

 カオステラーであるならば戦わなければならない。最悪、その者の命を奪うことも──その場合は調律したとしてもが配役される。それでは意味がない。


「!霧が出てきたぞ!」


 エイダが構える。幸運にもヴィランの気配はしない。しかし、霧は確実に濃くなり、次第に一行を包んでいく。


「みんな!霧が晴れるまでは動かないで!」


 暗闇の森が真っ白に染まる。


『──私は──どうして?』


 真っ白の中に溶け込む、金色。レイナのそれではなく、もっと透き通り光輝くような。そして、か細く消え入りそうな声音。ここにはいないはずの存在が、この霧に紛れている。


「誰?ちょっと待って!」


 エクスは足元も定かでないが、その声の主を探した。一歩、二歩…進めば進むほど金色は消えていく。


「エクス!」

「わっぷ!」


 名を呼ばれ、ハッとすれば、目の前にクロヴィスの掌が顔の前にあり衝突した。しかし、もしその手がなければ、次第に晴れる霧から垣間見える木の鋭く伸びた枝が目の前にあり、目を潰していたことだろう。


「坊主何やってんだ」


 タオは霧が出たことでやはり不安そうに震えるラ・ベルやレイナたちを確認しながら呆れ顔でエクスを見やった。


「動くなって言われると動きたくなる?」


 ニシシとファムが笑うと、エクスはただ肩をすくめた。


(きっと何かの見間違いか)


「そ、それよりも早く行こう!ベルやレイナたちをこのままにしておけない」


 霧が完全に晴れ、精神的不安定を除き全員の状態を確認して一行は進むことを決断した。

 ラ・ベルは何故ここにいるのか何度か呟きながらも、やはり迷いのない足取りで森を進む。そして、それは奇しくも金色の声色の主が消えていった方向と同じだった。



 そして導かれるように、大きな屋敷の前にたどり着いた。

 薄気味悪いとはこのことである。まさにその言葉通り、錆び付き閉ざされた鉄格子の門の向こうには手入れのされぬ木々や芝が伸び鬱蒼としている。その奥に佇む屋敷の窓からはゆらゆらと不気味に光る燭台の炎が見え、いっそのこと、真っ暗の方が怖くないほど不気味であった。


「……………」

「タオ兄、行ってくださいよ」


 若干後ずさったのを見逃さず、シェインはタオの背中を押した。


「わたくしが、参りましょう」


 先ほどの霧で消極的になっていたラ・ベルがすっと前に歩み出た。


「ベル、大丈夫?」


 レイナの言葉にラ・ベルは小さく頷くと、鉄格子に手をかけた。



── 望むべし、命ずべし、汝はは

ここの女王にして、女主なり──


「!」


 錆び付いてるのにも関わらず、その扉は、何の音も発せず、そして、開かれた。





 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る