9-10 行動

 正月は過ぎ、いまだ寒さが厳しいころ。大浦の城下には高々と寄せられた雪が、何層にもわたって積み重なっている。


 為信は、大商人の豊前屋を呼び出した。


 豊前屋は、恐れていた。もしや罰せられるのではないかと……。戌姫を茶道の輪にいれたのは自分だし、不貞を報告する前に事は起きてしまった。覚悟を決める。



 しかし、予想を逆らった。


 為信は言う。


 「豊前屋。お前には、安東との仲を取り持ってもらいたい。」




 南部家臣が何用で安東と……もしや。



 豊前屋は、為信を凝視した。為信は頷き返す。


 「いずれは、大浦は南部と敵対する。南方の安全を保っておきたいのだ。」


 願ってもない話だ。実は私は……安東様より密命を受けていた。“津軽の内情を逐一報告せよ”と。安東も周りを敵に囲まれている。北側を味方にできれば、この上ないことだ。


 すぐさま豊前屋は羽州秋田へと出向き、安東愛季に謁見。ここに大浦と安東の密約は成った。



 ……雪は解けて、春となる。糠部南方の大名斯波氏は、北の南部領へ攻め入った。南部信直はすぐに兵を出し、斯波の軍勢と争う構えを見せる。同じくして津軽地方へ兵糧の供出を求めた。前年の飢饉がたたり、十分な食料を自前で準備できなかったためだ。


 為信はこの要求を拒絶した。


“津軽も飢饉で苦しんでいるのに、戦の為に出せるはずがない。こちらに食料を分けてほしいくらいだ”


 他方では“治水”の事業も開始。滝本の意向を無視し、手始めに岩木川の上流より手を付けた。そこは大光寺領ではないが……川の流れを変えれば、大光寺領全域を水浸しにすることも可能。滝本は憤慨した。


 そして、同年六月二八日。第一子の信建が誕生する。幼名は平太郎。男子が生まれ、家中の意気は上がったのだ。

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