9-9 決意

 為信は襲う。右手の囲う晒布はほどけ、辺りに広がった。徳姫も気づいたころには激しい痛みを覚え、目前の男に恐怖した。廊下の床は、二人の血で覆われる。



 しばらくして……徳姫は身ごもった。



 父の千徳政氏はとても驚いたが、甘んじて受け入れた。なぜなら大浦一門となり、立場が保たれるからである。だたし……兄の政康は違った。徳姫は、傍にいる政康に泣きついた。政康も……“妹は、汚される為に来たのではない”と憤った。だが……してやれること、ひとつもない。


 後になって政康は千徳の家督を継いだ。南部と通じ、為信に対し反旗を翻すに至る。……結果は、みじめな敗死。ここに千徳家は滅亡する。




 徳姫に対し、……戌姫は子を最後までなすことできず、しかも夫を殺そうとした。先代の娘ではあるが、これまで通りにはいかぬ。居場所は無くなり、城より出でて仏門に入る。



 年は明け、天正二年(1574)になった。為信の正室には千徳政氏の娘、徳姫がおさまった。新年の祝事は、この二人を目前にして行われる。


 その日から、沼田祐光も復帰した。夜、二人はしばらくぶりに集う。


 沼田は為信に、事の仔細を報告した。


 「犯人は成田伝也という男で、滝本の家来でした。」


 予想していた。あの戌姫は……たぶらかされたのではないかと。嘘の愛に騙されたと、己を納得させたかった。


 滝本は……大浦の意に添う気がない。

 そして……滝本を敵にすることは、南部氏に逆らう事と同じ意味。




 沼田は問う。


 「どうしますか。」




 周りは、ただただ暗い。月は雲で隠され、虫さえも飛ばぬ。為信は決断する。はっきりと、その言葉を発した。


 「決起する。」





 “津軽を、平らげる”

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