8-7 提案

 秋となり、浅瀬石より人質が送られてきた。千徳政氏正室の富子と一男一女。

 息子は政康と言い、今年で一五歳。父は元服を急がせたようで、為信の家来に加えられた。娘は徳姫と言い、一四歳である。ひとまず戌姫の侍女とされた。



 これで大浦家は一層大きな勢力となった。大浦領内だけでなく旧石川領と千徳領も併せると、津軽の半分を占める。残りは大光寺滝本領や浪岡領、他の小領主らである。

 この状態に滝本は危惧する。旧石川領も正式に認められてしまった。為信の力は増すばかり。これでは“治水”の件で好きなようにやられてしまう。民を豊かにするために適うのはわかるが、代々大光寺は舟運の民から支えられている。彼らが嫌がるのであれば、助けるしかないのだ。

 かといって、為信に抗える有効な手段はない。なにか小さな綻びでも見つけようと、滝本は大浦城に間者を紛れ込ませた……。



 ……夜、大浦城では為信の書室に家来が集まる。八木橋が言い出し、森岡と沼田も集う。病床の兼平の代わりとして、息子の綱則も加わった。何を話すというのか。


 火は灯された。


 最初に、八木橋は森岡に言う。


「森岡殿……怒らないでください。」


 森岡は怪訝そうに八木橋を見る。


「……話によるぞ。」


「いえ、このたびは約束していただきたいのです。」


 八木橋は森岡に迫った。森岡は怪しく思ったが、とりあえずは頷いた。


 為信も、八木橋の話し出す内容を知らない。沼田も同じだ。



 一息つき、八木橋は始めた。


「……殿の立場についてです。外のことは落ち着きましたが、中のことは片付いていません。」


 “中”とはどういうことだ。森岡は問う。

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