二子殺し
8-6 梟雄
次の日、八木橋は三戸へ出立した。数人の家来と共に、東へと道を進む。
後を見送ったのち、為信と沼田は城で一番高い櫓に上った。下には広大な平野が、賑わう町が、人の行きかう姿が見える。高いところにいても暑いのには変わりなかったが……風がそよぐだけましなのか。
為信は、独り言のように語る。
「“防風”と“治水”がなれば、田畑は広がる。田畑が広がれば、万民が土地を持つようになる。万民が土地を持てば……在来の民と他国者の差はなくなる。」
万民……つまり、田畑が多くなれば他国者にも土地はあてがわれる。貧民も豊かになり、浮浪することもない。万次党のような……徒党を組む必要もなくなる。
沼田は、“はい”とだけ相槌をし、為信と同じ方を眺める。
「私は、まだ甘いか。」
為信は不安そうに沼田に問う。沼田はゆっくりと首を振る。
「そうか……。」
雲一つない空。終わりの暑さを楽しむ。
「……私は、殺すつもりだ。」
沼田は、万次のことかと思った。二度目だが、改めて何を語るのか。
「鼎丸と保丸、いずれは殺す。」
おもわず沼田は、持っていた扇子を落とした。それは高い櫓からひらひらと、宙に漂いながら落ちていく。
「家中での争いは、民をも苦しめる。南部の内紛を見てもわかるだろう。」
はい。しかし……
「昔とは違うのだ。」
そういうと、為信は梯子で下り始めた。沼田はだまって後を従う。
まさに今、梟雄にならんとしている。
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