6-7 異変
膳が運ばれる。すべての食器は真っ赤な色合いで、漆が光る。椀の模様は二羽の鶴。汁は透き通り、ただ小さな葉っぱが一つ浮かぶだけだ。
大光寺が天井を見て言う。
「毒見は誰がいいかのう。」
為信はすぐさま返した。
「私がいたします。」
政信は頷く。
為信は政信の前へ進む。椀を両手で持ち、一気に汁を飲み干す。ここに、味わう必要はない。
政信はこれまたわざとらしく、大光寺をしかりつけた。
「これ、大光寺。大浦殿の全快祝いでもあろうに、その“主役”に毒見をさせるとは何事か。」
「すいませぬ、若。大浦殿があまりにも手を付けるのが早く、止める隙もありませなんだ。」
場が笑いに包まれる。ここで為信がおどける。
「申し訳ないが、もう一杯いただきとうござる。あまりにも早く飲みすぎてしまい、十分に味わってないのです。」
昼からの宴は和やかに進んだ。
途中で政信は、自分の城から連れてきた侍女らを広間に招き入れる。皆に接待をさせるためだ。
政信の隣には久子が侍った。為信と目が合う、哀しい視線、無言の訴え。政信はその様を知ってか知らずか、久子を腕で己の体に寄せる。酔いに任せて抱き付き、口吸いをする。目は為信に向けながら。
その様を見たからだろうか、為信は胸に違和感を覚える。なんだろう、これは……。
“冷静に冷静に……心静まれ”
そのうち、鼓動の激しさが加わる。これはまずいと、厠へたつ。周りの者は“便所か”と為信を指さしあざ笑う始末。酒の呑みすぎで吐くのだろうと考えているためか。
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