6-8 陥落

 苦しみは増す。一人、厠でうずくまる。助けを呼ぼうと思ったが、声を出そうとすると今にも吐きそうになる。かといって吐こうとするも、まったくでない。嗚咽のみ出る。


“これは、心の苦しさだけではない”



 為信は気付いた。



 ……となれば、何があたったのだ。



息苦しさ、鼓動の激しさ。目に映るは政信の顔。耳に入るは大光寺の声。



 “……毒か”



 それ以上のことを、考える余裕などない。胸元に潜めていた毒消しの薬を、そのまま包み紙より喉に流し込む。




  為信は、意識を失った。







……堀越の別荘は、地獄絵図。為信だけではなかった。


 津軽郡代の石川政信、重臣の大光寺光愛ら十数の名士らも、もがき苦しんだ。政信に嫁いだ久子も、共に接待していた侍女らも犠牲となった。


 無事だった者たちは大いに慌て、なすすべを知らぬ。そうしているうちに、外に軍勢が沸いた。白地に“救民”と書かれた旗がなびき、五百ほどの兵士は堀越の別荘に突入した。


 中の者は武装していない。あっけなく倒されていく。しかもその多くは武士ではなく、生き残っていた使用人らだった。まさか、己の人生が戦で潰えるなど思っていない。


 “救民”の軍勢は、早くに堀越を攻略。次に石川城へ向かった。そのころには石川にも異常が伝えられており、急ぎではあったが弓や刀の準備が整う。主はいないながらも、郡代の本拠らしく争う構えを見せた。


 軍勢は、城への攻撃を始めた。火縄の爆音も轟く。少なくとも十丁はあるだろうか。軍勢の中でも野蛮な者等は、城下の家や屋敷に住まう兵士の家族を襲う。


 千徳の援軍も到着し、数は増す。石川城の士気もことごとく下がる。

城門は壊され、中の者は斬られていく。


 ついに、陥落した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る