6-4 嫁入り

 悪寒で震え、ひたすらこごえる。とてもじゃないが、布団より外へ出ることができぬ。為信は病にかかり、寝所にて休む。


 そこへ、妻の戌姫と養女の久子がやってきた。今は母親と娘のはずだが……まるで姉妹のよう。現に彼女らは二つしか齢が離れていない。為信は早くも父として、子を送り出すことになった。


 侍女は額より袋を取り換える。最初は氷だったものが、今ではぬるま湯と化していた。戌姫は“変わりましょうか” と侍女に聞くが、断られる。なぜなら娘の婚儀に付き添うからだ。病を移してはかなわぬ。


 「……ついてやれなくて、すまぬ。」


 為信は久子に謝った。久子は首を振り、“お気持ちだけで、十分です” と応えた。しかし、心の中はさぞ複雑だろう。お家のためとはいえ、若くして親元を離れるのだから……。


 為信はやっとのことで体を起こした。そして久子に話しかける。



「私も、お前と同じくらいの時に親元を離れた。嫁ぐならば、いつかは通る道かもしれぬ。」



 “……覚悟いたしております。”



 雪深い中、祝いの列は発する。親代わりとして戌姫が石川城まで送る。……実の親である兼平は、高い櫓から列を見つめる。ついては行かない。一層取り戻したい気にさせられるからだ。今でさえ、手を遠くへ伸ばしている。 “……老いたものだな” と、己の眼をぬぐった。



 ……物音が静まったのち、為信は深い眠りにつく。これまでに疲れが噴き出ているかのよう。夢を見ることもない。




 目覚めると、傍らに男が座っていた。いかつい顔をしている。床には白く塗られた木の箱が置いてあり、小皿やすり鉢が手前に用意されていた。

侍女は言う。


 「薬師様がお待ちでございます。」


 “おお、そうか。それはすまなかった”


 為信は、その少しだけ楽になった体を起こし、薬師の方へ曲げた。

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