4-8 対決

「“見放され”とはどういうことだ。」


 信直は鋭い眼光を放つ。使いは答えた。


 「はい。娘の翠様は大殿と喧嘩をなさり、城をお出になられました。その後は行方知れず、自害したと伺っております。」


 信直の家来らは慌ててしまった。中でも泉山は額に手をあて、“なんたることを……”と戸惑いを隠さない。信直には妻のことを秘密にしていたのに。


 信直は初めて聞く。愛する妻が死んだこと。とてもじゃないが、冷静でいられなかった。ほかのことであれば……動じなかっただろうが。




 心をできるだけ落ち着かせようと、目を瞑り心に手を当てる。……鬼は、姿を現した。



 信直はいきり立つ。その場で宣言をした。



「晴政を討つ。」


 家来で止める者はいなかった。とてもじゃないが止められるものじゃない。使いの者は急いで帰っていく。



 ・・・毘沙門堂か。林に囲まれた丘の上にあり、石段が百もある。私は三戸に参上するとき、いつも泊まっている。晴政はきっと、そこを囲んで一網打尽にするつもりだろう。


 ……逆手に取ろう。


 信直は家来のいる部屋を後にし、館にある倉庫へ向かった。その中でも奥、さらに奥。

長い木箱が十ある。そのうちの一つのふたを開けると、布に何重にも覆われた長い筒。


 “晴政は、火縄の威力を軽くみている”


 信直には先見の明がある。前々から蓄えてきた代物……。家来のえりすぐりを集め、訓練を重ねてきた。初めて役に立つときが、まさか主君殺しとはな……と、己の不思議な運命を想う。



 数日後、信直一行は田子より三戸へ出発。三戸城より川を挟んだ向かい側、毘沙門堂に入った。


 戦の火蓋が、切って下される。

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