1-2 誘い

 為信は言葉を発しようとしたが、息が詰まる。激しくせき込む。おもわず面松斎は少しだけ笑ってしまった。


 「為信様……そんなに慌てることはございませぬ。面松斎はここにおります。」


 面松斎は為信よりいくばくか歳が多い。家中のはぐれ者である為信の……兄的な存在でもあった。


 「すまぬ。……なに分、初めてでな。」


 「そうでございましょう。……初めての“策謀”ですかな。」


 為信は再び慌て、せき込みすぎて、胸元が辛い。面松斎にとっては、可愛らしく面白い。


 「ええ。そうですね……鼎丸と保丸、二人とも殺せということですか。」


 面松斎はにやりとして、いまだ下を向いている為信に話しかけた。為信は激しく首を振った。振りすぎのようにもみえる。


 確かに……実子の鼎丸と保丸を殺してしまえば、家督を譲る必要はない。必然と為信の地位は安定し、力は強まるだろう。


 為信はだいぶ落ち着きを取り戻し、襟元を正した。


 「私は家督がほしいのではない。認められたいだけだ。力をつけて、新たなる施政を行う。」


 ほう……何をしてほしいので。


 「"偽一揆" をおこしてもらいたい。」


 はて……初めて聞きますな。その言葉は。


「一揆のふりをしてくれるだけでいい。他国者を集め、領内に反旗を翻す。兵をもって征するところ、この為信が単身で乗り込み説得する。一揆勢は納得して、おのおのの家に引き上げる。どうだ。」


 早い口調で言いあげた。終わったせいか、少しすっきりした表情を見せている。


 ……一ヶ月ほど前、相川西野の乱が鎮圧されたばかり。支配者層は一揆の類に敏感になっている。そこで手柄を立てれば、為信の力を認めるに違いない。


「確かに私が呼びかければ、ここらの者らは一揆をおこすやも。しかし為信様。我らにとっての得はありますかな。」

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