ダイ。

伊森ふう

第1話 俺は死んだ?

俺、大藤 真興 (だいとう まさおき)は、死んだ。


人通りの多い交差点で猛スピードで車が飛び交う。

そこを信号を無視し、飛び出した。

俺の体は宙へ浮かんだ。そして頭から硬いコンクリートへ落ちた。

死因は頭を強打したための脳出血。

病院へ着いたあとすぐに息を引き取ったらしい。


人間は使命を持って生まれてこない。

強いていうならば、"死ぬために生きている"と言えば簡潔だろう。

動物は子孫を残すために、時には厳しい環境の中で生きて、そして死んで、土に還ってゆく。

しかし人間はどうだ?人間は自分の"楽"のためだけに生きる。そして地位的な"下"を求め、満足する。ほとんどの人間はそうだと思う。そうでなかったとしても、人間は感情をもっている。つまり特別な生き物なのであると俺は思う。

だから人間に生まれた俺が嫌で俺は自殺した。感情なんかもつから、死にたくなった。

しかしこんな事を理由にして死を選ぶだなんて、俺は実に人間的だと思った。しかしやっとことで死ぬことができたのだ。


しかしなぜだろうか

俺は今、存在している気がする。


死ぬというのはこういうことなのだろう。まさに俺はこの世でいう''幽霊"となった。なぜならば、俺の目の前に、自分の死体があったからだ。加えて、今意識がある俺の体は半透明になり全裸であったからだ。そして俺の死体の隣で、血の繋がっていない母と姉が、まさくぅん〜と泣いていた。別に泣くほどの仲では無かったと個人的には思うのだが。


改めて見ると、今の俺の立ち位置からは、死体の頭しかみえないのだが、頭には包帯が巻かれ、顔がひどく青黒くなっていた。じーっと自分の死に顔を見ていると、ふいに、お医者さんが俺の顔から人工呼吸器を外した。そこからは俺も俺の死体を見るのをやめた。なんだか惨めな気持ちになったからである。

ここで俺はあることに気がついた。この世の音が聞こえなくなっていたのだ。俺が母と姉のまさくぅん〜という声を聞いたあたりからは、全く音が聞こえなくなってしまったようだ。無音な空間となることで、さらに他界した感が増したが、いきなり足元から声が聞こえた。


「まさおきサンでスか?」

「ふぁ!?はぁ、びっくりした」

「ボクは鬼デス、あなたヲあの世へ案内すルデス!」


俺を呼んでいたのは鬼…とは思えないほどふわふわとしたネコのような生き物だった。結構流暢に日本語を発している。その自称鬼…があの世へ案内してくれるというので、俺は素直についていくことにした。

自称鬼は急にがばっと手を広げた。すると、自称鬼の後ろの壁が歪み始め、やがてドロドロと溶けた。そしてその溶けた壁へ入るようにと指示されたので、俺は躊躇なく入った。しかし、壁は思ったより粘り気が強く、スライムのような状態だった。あの世行くにはこんなにもドロっとしているところを通らなければならないだと知って俺は苦笑した。他界した友人も、ここを通ったのかもしれないなんて考えながら、ずむずむとさらに体を壁へめり込ませた。


そして

俺はついに、あの世へ行けるのだろうか。

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