第四章 更に闘う者達
その14 迎撃準備
翌日―
異世界生活四日目。
朝日に照らされたチェロ村の広場に、忙しなく木を打ち付けあう音が木霊する。
「よーし、こんなもんだろ」
東側入り口付近。
太い丸太を地に打ちつけ終わると、カッシーは木槌を置いて額に噴き出た汗を拭った。
入り口の両脇には、丸太で組まれた馬防柵が完成しつつある。
頑丈な樫の木を網目状に組み、しっかり綯いだ綱で縛った立派なバリケードだ。
元々五メートル程の道幅があった村の入り口は、今その柵によって1.5メートル程にまで狭まっていた。
中央には上下に開閉可能な木の門が吊るされており、これによって入り口を閉鎖できるようになっている。
無論、盗賊の襲撃に備えての用意に他ならない。
「おっ、はえーな。もう完成間近じゃないか?」
と、できあがりつつある柵を見てほほうと感心しながら、様子を見に来たヨーヘイがカッシーに声をかける。
突貫工事にしては中々の出来栄えだ。
「もうちょいかな。あとは門の微調整」
「俺も手伝うぜ」
「怪我は大丈夫なのか?」
「ん、まあちょっとは痛むが平気だろ。元々頑丈さが取柄だからな」
ヨーヘイの右腕を吊るしていた三角巾はもうなかった。動きにくいと自分で取ってしまったらしい。代わりに少し厚めに巻いた包帯で固定しているようだ。
みんなが働いてるのに怪我如きで自分だけ休んでるわけにもいかないと、ヨーヘイはそこにあった木槌を手に取り、笑ってみせる。
カッシーは礼を述べると、もうひと踏ん張り、と木槌を振り上げた。
♪♪♪♪
同時刻、村の物見櫓頂上―
ササキとぺぺ爺は周囲を一望できる塔の上から、辺りを確認するように眺めながら綿密な打ち合わせを続けている。
「確認のためにもう一度聞きたいのですが。村の出入り口は東、南、北西の三つだけですな?」
「うむ。東の通路はコーダ山脈を通ってその先に続いておる。南はヴァイオリン城に続く一本道じゃ。北西はアンタ達が出てきた社に続く山道になっとる」
一つ一つ、順に入り口を指差しながら、ペペ爺はササキの問いに答えていった。
ふむ、と息をつきササキは腕組みする。頭の中では目まぐるしく計算式が飛びまわっているようだ。
「盗賊が普段やってくる道は、確か東の入り口でしたな?」
「その通り、恐らく山脈の麓にでもアジトがあるんじゃろうの」
「なるほど……」
視線の先ではカッシーやヨーヘイ、そして村の男達が忙しそうに馬防柵を作っているのが見える。
昨夜、村人達を一致団結させる火付け役となった、見事な演説を披露したこの青年は、頭の中で鮮明になりつつある自らの作戦に対し、不敵に笑みを浮かべた。
「参考になったかのう?」
「もう一つよろしいか? これら三つの道は、村を経由する以外でそれぞれ往来する事は可能ですか?」
「ううむ……どれも一本道じゃのう。村を経由しなければ無理のはずじゃ。ただ、東の道と北西の道に通じる獣道ならいくつかはある」
「獣道……」
「人が一人やっと通れるくらいの細い道じゃがの」
獣道か――
僅かに眉根を寄せ、ササキは東と北西二つの入り口を交互に見ながら口の中で唸った。
「会長」
と、そこに櫓の梯子を登って日笠さんがやってきたので二人は会話を中断して少女を振り返った。
「おはよう日笠君」
「すいません、ちょっと寝坊しちゃいました」
「昨日は遅かったからの。気にせんでええぞい」
日笠さんはそう言ってぺこりと頭を下げたが、ぺぺ爺は気にするなと笑って見せる。
盗賊団と戦う事を決意したカッシー以下村人達は、その後もペペ爺の家に残って夜遅くまで作戦会議を続けていたのだった。
会議が終わってカッシー達が宿に戻った頃には、もう東の空が白みかけていたほどだ。
ちなみにササキとぺぺ爺は昨日から一睡もしていない。
その作戦会議が終わった後も二人はさらに綿密な作戦を練っていたのである。
そんな事を億尾にも出さず、ササキはしらっとした顔で日笠さんを出迎える。
「他のみんなはどうしたコノヤロー?」
「カッシーは朝早く出て行ったみたいです」
「知っている、もう門の建築に取り掛かっているぞ」
「えっ?」
と、物見櫓から見える東門付近を見下ろしてササキは答えた。
日笠さんはササキの言葉を受けて同じく東門付近に目を落とすと、そこで懸命に木槌を降ろすカッシーに気付き心配そうな表情を浮かべた。
大方、カッシー大丈夫かしら、気合入れすぎてバテないといいけど――などと思っているのだろう。
本当に面倒見がいい子だなこの子は、とササキは口には出さないが感心していた。
「他の子達はまだ寝てますけど、そろそろ起きると思います」
時刻は八時三十分くらい。
ようやくこの世界の時刻に合わせることができた腕時計を見下ろしながら彼女は答えた。
「そうか、悪いが起きたら広場に集まってもらうよう、伝えてくれ」
「わかりました」
そしてさらに三十分後―
ほどなくして残りの面々だけでなく、村人全員が広場に集まると、ぺぺ爺とササキの指示の下でいよいよ本格的な作戦準備が始まる。
「おはよう皆の衆、よく眠れたかの?」
集まった一同を見渡してぺぺ爺は珍しくやや抑揚した声で尋ねた。
「盗賊団だが、大方の予想通り今日の夜には再度襲撃してくるだろう。そのためにさっそく迎撃のための準備に取り掛かってもらいたい」
覚悟はいいかね?――
そんな顔つきで、ササキは皆を見る。
一同は無言で頷いた。どの顔もやる気満々といった顔付きだ。
「作戦は概ね昨夜話したとおりだ。各々準備にとりかかってくれたまえ」
「何かわからない事があったら、ワシかササキ殿に聞きに来るように。何か質問はあるかの?」
皆特に異論はないことを確認してからササキはよしと頷いた。
「では、始めよう。解散だ」
一同はササキの一声で準備のために散開していった。
♪♪♪♪
宿屋松ヤニ亭一階―
ロビーには優雅で優しいチェロの旋律が響き渡ると同時に、淡く暖かい光が青年団の若者を照らしだした。
「おお!!」
なっちゃんの前に屈んで様子を伺っていた若者達は、起こり始めたその光に驚きの声をあげる。
チェロから放たれた優しい光はみるみるうちに若者達の怪我を癒していった。
曲半ば。丁度楽器に身体の自由を奪われない程度のところで演奏を止めると、少女は一息つきながら若者達を見上げる。
「……どうかしら?」
「すごいっ!!動けるようになったぜ!」
包帯の巻かれた腕を元気良く振り回して見せながらすぐ傍にいた若者が嬉しそうに頷いた。
他の若者達も同様のようだ。完治まではいかないが昨日までとは打って変わって怪我した箇所に力が入れることができた。
よかった、うまくいった――なっちゃんはにこりと口元に微笑を浮かべる。
「ごめんなさい、完治まではできないけど」
「これで十分だ、感謝するぜ。これであいつらに一矢報いる事ができる!」
若者達はそう言って、包帯を取り除くとお互いを見合って喜んだ。
なんとかなりそう、思惑通りにことが進み少女は安堵の吐息を漏らした。
これで十人目。少し頭がふらふらしてきたけど…でもやれるだけやってみせる。
少女は深呼吸をすると気合を入れた。
昨夜、会議を終えて床に就くと、少女は一人考えていた。
あの生徒会長の閃いた作戦はそれは大胆で画期的なものだった。
確かに村人一丸となって挑めばなんとか勝てるかもしれない。
しかしそれでも五分、いやこちらが若干不利だと彼女は感じていた。
理由はこちらの戦力の要である青年団の欠如。
ほとんどの若者は盗賊団の奇襲によって負傷してしまっていたからだ。
だがやるからには絶対に勝たなければならない。
ではどうすればいいか。寝返りをうちながら少女は頭の中でその術を模索していた。
聡明な少女は、すぐに打開策に思い当たった。
そう、あのチェロの力を使えばできるかもしれない――と。
もちろん彼女はためらった。
また意識が遠のいて倒れてしまうのが恐かったから。
でも私は覚悟を決めたんだ、この村の人達と一緒に盗賊団と戦うことを――
彼等はあの時私達の演奏を聴いて喜んでくれた。
私達が村に滞在するのを許してくれたし盗賊団からも護ろうとしてくれた。
覚悟を決めるとはどんなものなのか。実は彼女はまだよくわからない。
だが今できることをすることが、きっとそれに繋がる気がしたのだ。
あとはご覧のとおりである。
一晩考えて意を決すると、なっちゃんはヒロコに頼んで怪我人を集めてもらい、若者達を治療していたのだった。
できる限り怪我人を治してみせる。そう決意して――
「じゃあ次の人、来てください」
少女は再びチェロに弓を置き、徐に演奏を始めたのだった。
♪♪♪♪
一方こちらは北西の入り口。
昨晩ササキと揉めた村の中年男達は手に持ったスコップで大きな穴を掘り続けていた。
「ふぅ……結構重労働だな」
男の一人が、汗をぬぐいながら呟く。早くも腕が悲鳴をあげてきていた。
ちょっと一休み、男はそんな感じでスコップを地に刺すと寄りかかって一息つく。
「若いのに任せてすっかり怠けてたからなぁ」
「んだなあ、こんなきついとは思わなかった」
「そんな弱音吐いてる場合か」
と、相槌を打ったもう一人の男に対し、腹の出た中年男が即座に割って入った。
昨日ササキに散々尋問を受けていたあの男である。
「おいおい、なんだよ急にやる気になりやがって」
「ちがう、あれを見てみろって」
と、不満そうな顔をした二人に向かって腹の出た男は顎をしゃくって傍を示した。
そこにはいつの間にか、凄まじい勢いで土が飛び出してくる深い穴ができあがっていたのだ。
なんだこれは?――と、中を覗いた男達は即座に納得していた。
穴の底では、眉間にシワを寄せまくり、一気に大量の土を掻き上げていく少女の姿があったからだ
あっという間に穴は井戸の如き深さとなり、外には土がてんこ盛りになっていった。
「……すげえ」
中年男達は唖然として立ち尽くす。
そんな彼等に気がついて、東山さんは掘るのを止めると遥か上の男達へ顔を向けた。
「あ、手が空いてるならそこの土、運んでもらえませんか?」
「は、はい! わかりました!」
思わず敬語になりつつ中年男達はコクコクと水飲み鳥のように頷いたのだった。
「な? あんな若いお嬢ちゃんが頑張ってるのに、何弱音はいてんだおまえら」
「こ、こりゃ負けてらんねえ」
「しょうがねえ、もうひとふんばりするか!」
お互いを見合った後、彼等は気合を入れて再び土を掘り始める。
東山さんは突然気合の入った声が外から聞こえてきて、一人穴底で不思議そうに首を傾げていた。
「恵美っ、調子はどう?」
と、ふと上からそんな声が聞こえてきて東山さんは再び顔を上げる。
穴の端から顔を覗かせた日笠さんの姿が見えて、東山さんはスコップを地に刺すと、額の汗を拭って手強気な笑みを浮かべて見せた。
「順調よ!」
「でもちょっと掘り過ぎじゃない?」
「そう? 深くなきゃ落とし穴の意味ないでしょ?」
「落とし穴っていうか……温泉でも掘り当てるつもり?」
彼女の信念のように真っ直ぐに、そして深く掘り下げられた落とし穴を眺めながら日笠さんは顔に縦線を描いた。
穴の深さはすでに五メートルは超えている。
声がエコーをきかせて穴の中に響くほど結構な深さだ。
「ま、まあ……ほどほどによろしくね」
「わかったわ!」
腕まくりをしなおして、東山さんは気合いも新たに作業を再開した。
「日笠君、穴掘りの方は順調かねコノヤロー」
「あ、会長」
と、様子を見に来たササキはそこら辺に点在する穴を見て満足そうに頷いていた。
「まあ東山君の力ならすぐに終了しそうだな。素晴らしい」
「でもこんな所に穴を掘ってどうするんです? 盗賊団がやってくるのは東からですよね?」
ぺぺ爺は言っていた。盗賊団はいつも東からやってくると。
北西からは盗賊団は来そうにないけど、一体どうするつもりなのか。日笠さんは訝しげにササキに尋ねた。
ササキは不敵に笑うと、穴から日笠さんへと視線を移して得意げにチッチッと指を振る。
「策とは何重にも張り巡らせておくものだ。今度の戦いはどう見積もっても個々の戦力では向こうが勝っている」
「はあ……」
「今のうちにできることはしておきたいのだよ、これはいわば保険だ」
「保険……ですか?」
「そうだ……ンー? これどう見ても掘り過ぎじゃないか? 東山君は石油でも掘り当てるつもりか?」
と、先刻の自分とまったく同じ感想を漏らしたササキを見て日笠さんは苦笑する。
「それは恵美に言ってください」
「嫌だ怖い」
「……会長」
「おーい、バカイチョー!」
と、間の抜けた会話をしていたササキと日笠さんの下に、今度は村の子供達を引き連れたかのーがやってきた。
肩に担いだ棒の両端には、木の桶が天秤のように吊るされている。
後からついてやってくる村の子供達も小さなバケツを両手いっぱいに抱えていた。
「ご苦労、ちゃんと獲ってきたか?」
「ムフ、タイリョー」
「いっぱい獲ってきたぜ!」
と、泥だらけの顔でケタケタ笑いながら、かのーと子供達はVサインをして見せる。
「では、そこらへんに置いといてくれ。ちゃんと逃げないように蓋をしてな」
「オッケイなのディース」
「かのー、獲って来たって何を?」
さっぱり話がわからない日笠さんは、不思議そうかのーに尋ねる。
と、かのーはニヤニヤしながら得意気に大きな鼻息をバッフゥー、と一つ吐いた。
「ムフ、ひよっチみたい?」
「え? うーん気にはなるかな……」
とはいいつつなんだか嫌な予感がしたが、とりあえず日笠さんはこくりと頷く。
かのーは桶の蓋をとって、おいでおいでと彼女を手招きした。
日笠さんはおそるおそる中を覗き込むと、入っていたのはムカデやらミミズやら、カエルやらヘビやら、所謂ゲテモノの類――
見る見るうちに少女の顔がひきつっていく。
「ひっ!?」
甲高い悲鳴を上げて飛び退くと、日笠さんは一目散にササキの後ろに隠れた。
「うっせーなー」
「これだから女は駄目だよなー」
「そーそー」
様子を見ていた子供達は、日笠さんのリアクションを見てクスクスと笑う。
「こんなのどうするんですか会長?」
「クックック……秘密」
ササキはにやりと笑ったのみであった。
♪♪♪♪
「えーっと、そんじゃ軽く教えよっかねー」
こちらは宿屋「松ヤニ亭」の前。
集まった村の女性達を前に、こーへいは相変わらずのマイペースな口調でそう呟くとぽきぽきと腕を鳴らす。
「コーヘイ。私達でも本当にできるの?その『ジュードー』って奴」
「へーきへーき。柔道は別に力でやるもんじゃないからさ」
怪訝そうにそう尋ねたヒロコに対し、こーへいはにんまりと猫口を浮かべて、咥えていた煙草の先からぷかっと煙を浮かべた。
何を隠そう彼は柔道初段の腕前だったりする。経験年数もカッシーの剣道より全然長い。
今でこそ交響楽団のヴァイオリンパートに所属しているが、中学までは柔道一筋だったほどだ。
そんな彼が何故オーケストラに入部することになったかというと、理由は簡単で新設校の音高には、彼が入学した時まだ柔道部がなかったから。それだけである。
どうしたもんかと校内をうろうろしていたそんな時、たまたま部員募集のチラシを見かけたのが、カッシーや日笠さんが部創設のため駆け回っていたオーケストラだったわけで。
面白そうだ、とこのクマ少年はあっさり入部を決めたのであった。
そんなクマ少年の初級柔道講座inチェロ村はのほほんとスタートする。
「柔道の極意は『柔よく剛を制す』ってやつでさ?」
「柔よく……剛を制す?」
「んだんだ。相手の力を利用して投げたり寝技に持ち込んだり、だから別に力の弱い女の子でもうまくやれば勝てる」
コクンと頷いてこーへいはそう付け加えた。
だがいまいちピンとこない表情でヒロコ以下女性陣は小首を傾げる。
まあそりゃそうだろなあ。口で言ったってわかりにくいだろうしよ?――
吸っていた煙草を地にぽとりと落として揉み消すと、こーへいはぽりぽりと頬を掻いた。
「んー、まあ、そんないきなり全部できるわけないから、簡単な技だけを教えんぜ?」
「どんな技?」
「『払い腰』って奴と『腕十字拉ぎ』ね」
「ハライコシ?」
「ウデジュウジヒシギ?」
「見せた方が早いよなー?えっとねぇ…あっ!かのーちょっとこっち来てみ」
頭の上に『?』を浮かべてさらに首を傾げる女性達を見て、どうしたものかと思案していたこーへいは、丁度ゲテモノ集めを終えて宿に戻ってきたかのーを発見し、彼を呼び寄せた。
「ドゥッフ?なんスかこーへい?」
事情を知らないかのーは、スキップしながら駆け寄ってくる。
「んじゃ行くぜー? まず払い腰ってのは、こーやって駆けて来た相手の力を利用して――」
徐にやって来たかのーの右袖と襟首を、がっしりと掴むこーへい。
クマ少年は一瞬にして、かのーの腰を自分の腰に乗せてぽーんと弾き上げた。
途端にかのーの身体が大きく円を描いて中に舞う。
次の瞬間、かのーはもんどりうって地に叩きつけられていた。
見ていた女性達の間から黄色い歓声があがった。
「ケポッ!?」
「こんな感じかなー?こうやって引き寄せて、相手の足を払った後によ?腰で持ち上げて投げる――と、これが払い腰でぇす」
「グフッ……こーへい……てめー何するディスカ?!」
強かに背中を打ちつけ、呼吸困難になりながらかのーは起き上がろうとした。
だがそんな彼に構うことなく、こーへいは続けざまにかのーの右腕をがっしりと掴み上げる。
「ドゥッフ!?」
「んーそんでー、倒れた相手に即近づいて、右左どっちでもいいから腕を捻って足で挟みこむ」
説明しながら素早くかのーの上に乗っかり、こーへいはバカ少年の右手を捻りながら足で挟みこんだ。
おおーっ!とまたもやヒロコ以下女性陣の間から歓声があがる。
「んで、腕を自分の方向にひっぱると関節が決まる」
「ギャアアアアアアアア! ちょっ、こーへい痛いディス! ギブギブギブ!」
「と、これが腕十字拉ぎでぇす。テコの原理を利用するから、力がなくてもできるぜ?」
「すごーい!」
「これなら私達にもできそうね」
ぱんぱんと、こーへいの足を叩いて悲鳴を上げるかのーを余所に、女性陣は興味津々に彼のまわりを囲みまじまじと観察しだした。
「んー、そんじゃ試しにやってみる?」
「ファッ!? このクマ何するつもりディスか!?」
と、一斉に前に並び始めた女性達を見て、青ざめるかのー。
「わりーなかのー、実験台ヨロシクなー?」
だがこーへいはぽん、と彼の肩を叩いてにんまりと猫口を浮かべると、煙草にに火をつけた。
しばらくの間、広場にはかのーの悲鳴が響き続けていたという。
そんなこんなで迎撃準備は順調に進み、時は流れ時刻は夕暮れ――
準備は無事に終了した。
一同は交代で見張りに入ることにすると、ぺぺ爺の号令で一時解散となった。
後は盗賊団の襲撃を待つのみだ。
カッシー達も宿に戻って遅い昼食を取ると、夜までしばらく休む事にした。
昨日ろくに睡眠をとっていなかったことに加え、朝早くからの突貫準備も手伝って、彼等はあっという間に眠りにつく。
村人達もそれぞれ家で休んでいるのだろう、広場は閑散としていた。
静まり返るチェロ村はまさに嵐の前の静けさのようだった。
そして、コーダ山脈の向こうに紅い光が沈むと。
いよいよ夜がやってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます