第37話 女。予備の備品は使うものでしょう。

 母さんが亡くなってから早くも2週間が過ぎた。


 猛威を振るっていた流行り病も落ち着いてきたみたいだった。

 多くの方が、今回の流行り病で亡くなっている。

 今回は主にお年を召した方が中心だった。知り合いのママ友の家族にも亡くなった方がいる。私と同じだ。もう2度とこんな光景を見たくない。

 ハッカーとしての仕事を今以上に真剣に考えなければ。何か強力な手はないのか考えていたら、ふと食料配達の中にの小魚を見た。

量が多くて、とても重い?

重いは、システムにとっても重い?


 これだわ。



「だから、予備の備品を使うのよ。全ての備品を使って同時攻撃ね」

「ですが、電力がたぶん足りないと思うのですが」

「それも 発電装置の予備を使うのよ。予備の備品は使うものでしょう。倉庫に置いとくだけが備品の役割ではないわ」


 誰かがクスクス笑っている。

 今日からまた仕事が再開された。

 私の提案で朝から会議をしているけれど、なかなか納得してくれない。

 私の提案は全ての予備の備品のコンピュータを使って同時攻撃をする案。

 今までのやり方だと時間が掛かってしまう。


 もう、2度とあのような光景を見るのはやだ。

 亡くなった高橋さんが最初の日に言っていた言葉「気が焦っている」が頭から離れない。

 今となっては、彼の言っている意味がよく理解出来る。

 母さんを亡くして、心に大きな穴がポッカリと空いている。

 これ以上、家族から犠牲者を出したくない。


「それではこの意見に賛成の方挙手をお願いします」


 全員が賛同してくれた。

 よかった。これできっと成功するわ。


「質問なんですが、これらのコンピュータを一度に操作出来ないのですが、どうするのですか」

「あらかじめプログラムを組んで、それらのコンピュータに入れておきます。

 学生さんで、ある程度のレベルでコンピュータを扱える方が大勢いるので、この人達にこれらのコンピュータの操作をしてもらいます。

 学生さんにこの操作方法を教え、合図と同時に全部のコンピュータが一斉攻撃を開始します。

 これで間違いなく向こうの最深部に到達できるはずです」


 これから忙しくなる。

 この地区の代表者は前の高橋さんの息子さんで、顔見知り。彼にも協力を仰がなければならない。

 備品を使う許可と 、システムの第二のコードが解放された後の法律を今から整えておかなければならない。

 こちらと、あちらの法律の調整がどうしても必要。

 文化が極端に違いすぎるので混乱が起きる可能性があるから。


「それと、代表者の高橋さんに連絡をして、備品を使わしてもらう許可と解放された後の法律の整備をお願いしたいの。

 えーと、彼は今日はどこにいるかご存知の方います」

「彼なら会議をしているよ。

 今回の流行り病に関しての事だといっていたよ。

 それ以上は知らないですけど」

「ありがとう。

 それでは私と智で高橋さんに会ってきます。

 智、いいよね」

「もちろん。お供させていただきますよ。

 子連れですが」


 みんなクスクス笑っている。

 また智がみんなを笑わしている。

 緊張するよりは、リラックスした方が断然いいもんね。

 ありがとう、智。


 私達は、例の大きな建物に入っていって、高橋さんの居場所を聞いた。

 近くの集団の代表者達との会議中だったので、好都合と思い許可を取って会議に参加した。


「それで、重要な話とはなんでしょうか」

「予備の備品を使う許可と、およそ1ヶ月後に起こす、第二のコードの解放に伴う社会混乱を無くす法整備をお願いしたいのです」

「今なんと言いましたか。

 第二のコードが解放されるんですか」

「はい、そうです。

 予備も含めた全てのコンピュータで、総攻撃をします。

 第二のコードが解放されたその後、向こうの混乱が大きいのですが、こちらもそれに対しての法整備をする必要性があります。

 向こうとこちらとで、人の行き来ができますから」

「それは素晴らしいことです。

 その為に予備の備品が必要ならば是非使ってください。

 法律に関しましては明後日に、集団の代表者による全体会議があるのです。

 そこで、この件に関して話し合ってきましょう。

 いやー。本当にありがとうございます。

 流行り病で今回の多くの方が亡くなり、希望が無くなりかけていた所に光明の光が見えてきました。

 みなさん喜びますよ」


 その後、細かな打ち合わせを高橋さんとして、私達は会議室から出た。

 歩きながら智が言った。


「しかし驚いたよなー。美貴のアイデアと行動力には」

「もう。茶化さないでよ智」

「マジでいってるんだよ。

 お母さんが亡くなってから落ち込んでいたなと思っていたら、いきなりこれだもんな。

 びっくりしたよ」

「これ以上の悲劇は起こしたくないの。

 もう家族がなくなるのはいや。

 だから一生懸命考えて、行動に移しているだけよ。

 でも、近くにパパがいてくれるから私頑張れる。ありがとうパパ」

「え、いやー、そう言われると照れるよな」


 そう言うと彼は、私の方に手を伸ばしてきて手を握ってくれた。

 優しさが手からも伝わってきた。

 心の中で、もう一回言った。


 ありがとう智。



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