第4話 女。おねがい、私を選んで

 朝からもう5人目。私って魅力ないのかな?


「明恵、諦めたらダメよ。きっと誰か私を選んでくれる」


 小声で独り言を言って、気を取り直した。


 幼い頃、母さんが読み聞かせをしてくれた絵本の中で、王子様が貧しい女の子と知り合って、最後には結婚をする話を思い出した。

 でもそれは、絵本の中での話。私にも王子様が現れるんだろうか。

 不安になってきた。

 もし、現れなければ惨めだ。今までの努力はなんだったのか。

 母さんを余計に悲しませてしまう。


 涙が少し流れた。

 また、落ち込んでしまった。


「あ、誰かが向こうからやって来る」


 思わず小声で独り言を言った。

 いけない、さっき涙を流したんだ。

 顔に涙の跡が残っているかもしれない。


 あ、しまった。

 思わず目をそらした。

 アンドロイドらしからぬ行動を取ってしまった。

 疑われるかな?


 こっちに来る。

 どうしよう。


「お早う」

「あ、お早うございます」

「君の得意な料理はなに?」


 良かったー。疑ってたんじゃないんだ。

 それより、得意料理って、私ないよ。

 どうしよう。

 えーと、母さんの得意料理は。


「あのー、和食ですね。それとメキシコ料理です」


 何とか言えた。

 母さんの料理で好きなのが和食とメキシコ料理だった。

 そう言えば、もう母さんの料理は食べれないんだ。


「和食か、いいね。俺好きなんだ。和食でも特に得意な料理は何だい」


 えー、困ったよー。

 特に得意な料理と言われても。

 適当に言って、もし作れなかったら疑われるし。

 間違いなく、美味しくできる和食は。


「えーと、肉じゃがと味噌汁、それと卵焼き」


 この答えで良かったかな。

 簡単な料理すぎるかな。

 でも、母さんが何時も作ってくれて、いつも美味しかった。

 そういえば、これがお袋の味だよって言ってたっけ。

 昔の言葉らしいけど。

 これらの料理には、ぴったりの表現だと思うんだよね。


「俺、肉じゃがと卵焼き、しばらく食べてないんだ。肉じゃがってどんな料理だったか教えてくれる」

「私が好きな肉じゃがは、ジャガイモ、人参、椎茸、タケノコ、牛肉、しらたきなどの食材に醤油、みりん、酒、水で煮込んだ料理です」

「それ、美味しそうだな。味はどんな感じ」

「素朴な味ですが、飽きのこない、そう、昔の言葉で言うと、お袋の味ですね」


 よかったー。

 肉じゃがに興味を持ってくれた。これなら簡単に、しかも美味しく作れる。

 でも、こんなに簡単な料理でいいのかな。

 凝った料理も多少は作れるんだけど。


「卵焼きの方は?」

「シンプルな方法だと、玉子と出汁、甘みを加えて焼きます。バリエーションとしては、ネギ、チーズ、ウナギなどの好みの食材を中に入れながら焼きます」

「ウナギと玉子は俺の好物だよ。でも、うなぎと玉子を一緒にした料理を食べたことないな」

「別の料理で、柳川という料理があるのですが、普通はゴボウとドジョウを出汁で煮て、玉子でとじます。そのドジョウをウナギに変えると、とっても美味しいんですよ」


 私の好きな料理だけど、これでいいのかな?

 心臓がドキドキしてる。 


「悪いけど、前に出てくれないか?」


 あ、もしかして、私を選んでくれる?

 彼が手を出差し出した。

 どうしよう。心臓のドキドキが早くなっている。

 そうだ、早く彼の差し出した手を取らないと。


 彼の手って意外と柔らかい。

 それに、背が高いんだ。私の背は彼の肩ぐらいしかないわ。

 これでは、身長差があり過ぎって思われたかな。


「悪いけど、上を向いてくれないか」


 彼の顔が目の前にある。

 私。緊張し過ぎて彼の顔が頭の中に入ってこない。


 でも、しっかりと見ないと。

 彼が私の王子様になるかもしれないし。

 えーと、彼の瞳は焦げ茶色で、まぶたは二重。鼻は高くてすらっとしている。

 口は少し長めで、やさしそうな感じ。


 わ。彼ってハンサムなんだ。

 よほど私、緊張してるんだわ。

 やっと彼の顔がわかった。


 お願い、私を選んで。


「君に決めたよ。一緒について来てくれ」

「有り難うございます。宜しくお願いします」

「こちらこそな。さ、行こうか」

「はい」


 ヤッター。

 母さん、私、選ばれたのよ。




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