第13話 男。国家機密
美貴との夢のような一週間が早くも過ぎ、今日が初出勤だ。プログラマーなので基本的には在宅勤務だけど、1ヶ月に一回ぐらいのペースで会議がある。ネットで十分なのだが、昔からの習慣らしい。
「朝ごはん美味しかったよ、美貴」
「智の口にあって嬉しいです。晩ご飯で、何か食べたいものがありますか」
「んー、そうだなぁ。和食を食べたいかな」
「はい、わかりました。旦那様」
「え、俺のこと。あ、そうか。古典的な呼び方だね。それじゃ、美貴は奥様だ」
「え。あ、そうですね。その呼び方されると、なんか照れちゃいます」
2人は笑いあった。この1週間ですごくうちとけてきた。もう、何年も過ごしている家族のようだ。身支度を終えて家を出る時、美貴を抱擁しキスをした。この一週で何回キスをしたのだろうか?。何回しても、いつも新鮮な感じでできてしまう。やはり心から愛してるからだろう。それしか説明がつかない。
「じゃね、美貴。愛しているよ」
「智、私も愛しています。お気をつけて行ってきて下さね」
愛しているとこれまた何回も言っている。キスと同じだなと思った。俺は心から美貴を愛しているんだ。車に乗って行き先を入力すると、車は静かに動き出した。外の景色を楽しんでいる内に目的地に着いた。ガードが何重にもなっており、重要な施設である事を物語っていた。その後は決まり切った規則の話。耳にタコが出来るほど聞いたあと、いよいよ政府のトップシークレットについての説明を受けた。
「それは本当の事なんですか。システムのパラメーターを変えられないなんて。」
「事実だから我々は困っているんだよ」
「100年前のハッカーの侵入により、パラメーターが固定され、それを変えられないなんて」
これで全て納得がいった。人口を制御するパラメーターが従来の数値より、十分の1に強制的に変えられたのだ。そのパラメーターは強力にガードされており、未だに破られてない。100年かかってもだ。よほど天才的なハッカーによって成し遂げたんだ。食料は余るほどあるのに、肝心の人類が十分の1とは。何が目的なんだ。
「彼らの目的は何ですか。何か要求でも」
「一切ないんだよ。目的も何もわからない。さっき説明した通り、絶えずシステムに対して攻撃をしており、我々はそれを防ぐだけで手一杯なのが現状なのさ」
「わかりました。つまり、私の最初の仕事は、これ以上被害が広がらないよう、彼らからシステムを守るチームの一員になる事ですね。頑張ります」
外に出ると、すでに夕方になっていた。車に乗り目的地を入力した。目的地は花屋だ。俺は花には興味ないが、美貴が好きだと言っていたのを思い出したからだ。美貴の喜ぶ顔が見たいが為に。
「いらっしゃいませ。どの花をお探しですか」
「えーと、困ったな。妻に花を持って帰ろうと思っているんだけど、彼女がどの花が好きかを聞くのを忘れたよ」
「それでは、こちらはいかかでしょうか。色々な花を束ねていますので、色彩が綺麗です。おすすめですね」
「本当だね。こうやって色々な花を束ねると綺麗なもんだね。今まで気付かなかったよ。これにするよ」
「ありがとうございます。それではこれを持ち帰り用にお包みします」
美貴の好きな花がこの花束に入っていなかったらどうしようか。正直に話すべきか、言い訳をするか。
あはは。さっきまでは国家機密の話だったのに、今考えていることは 美貴の事だ。人って面白いなと思うよ。両極端の話なのに、俺にとってはどちらも重要だ。
「ただいまー。今帰ったよ」
「智、お帰りなさい。お風呂が先ですか、それともご飯にしますか。
智、何か後ろに隠して」
美貴が言い終わらないうちに、後ろに隠していた花束を差し出した。美貴は、弾けるような笑顔になった。これだよ、これこれ。俺の見たかったものは。作戦成功だな。国家機密と同じくらい、俺には美貴の笑顔は重要だ。
「ありがとう智。とっても嬉しい。花束をもらったの初めて。それに私の好きな薔薇もある。覚えていてくれたんだね」
「あ、いやー、そのー。」
美貴を抱き寄せキスをした。いやー、危なかった。薔薇だったんだ。すっかり忘れていた。
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