第11話 絵里との日々
私と絵里との日々は実に退屈である。生活が退屈なのではなく、変化がないのだ。もちろん変化がない事が幸せというものもいるが、まぁ簡単にいってしまえば、「マンネリ化」というやつである。絵里が冷蔵庫を開けた。私は家ではパンツ1枚なので近くにいた私は冷蔵庫の冷気にヒヤリとした。基本的に冷蔵庫の中身は飲料だけである。それは絵里が料理をしないからである。まぁ、彼女に言わせればしないだけで作ろうと思えばなんでも出来る!インターネットサイトのレシピ通りにやれば問題ないし!とのことだった。多少の不安は抱えながらも、私は絵里の言葉を信じる事にした。だが、まだ1度も手料理を振舞ってもらってない。それどころかフライパンも皿もない有り様である。2年程これが続いているとさすがに私も疑わざるを得なくなってくるが、相手は絵里である。信用している。いつかきっと手料理の定番オムライスが食卓に並ぶ日が来る事だろう。そんな有り様なので冷蔵庫の中身は絵里の飲料ゾーンと私の飲料ゾーンで分けられている。まぁつまり飲料しかないのだ。私も絵里もそこまで酒は好まないので入っているのは、大抵お茶か私の大好きな迷彩柄のパッケージの炭酸飲料である。たまに絵里も炭酸飲料を買う事があるのだが、どうも彼女は炭酸飲料が苦手らしく2口程飲んだあと再び冷蔵庫へとしまってしまうのである。そんなのが2本も入ってたりする事もある。私からしたら不衛生としか思えないのだが、絵里は全く気にしていないようだ。それどころか私の大好きな迷彩柄の炭酸飲料のゴミ捨てに対して文句を付けてくる始末である。まぁゴミ捨てくらいは私がやるので別に怒ったりもしないのだが。大学2年の春私は絵里の家に一ヶ月程居候していた。文字通りの居候である。講義は週に4回あるだけなので私は週休3日のバケーションを楽しんでいたのである。もちろん絵里には迷惑だったと思うが…そしてこの一ヶ月はアルバイトも休みを貰っていた。夏休みに働いた分のお金が少しあったので、一ヶ月無収入でもなんの問題もないのである。そもそもアメリカ紙幣のクレジットカードで大抵の買い物は出来るので、私がアルバイトをする必要は皆無なのだが、アルバイト先での人間関係や、友人とするアルバイトの楽しさ、まぁ言い換えるならアルバイトはアルバイトで楽しいのである。これが私の働いている理由の結論である。周りからはなんで働いているのか?と問われるがその時は決まってアルバイトが楽しいからと答える。しかし大学の友人には到底理解されないらしく、社畜だなんだと冷かされる毎日である。あの絵里でさえそう冷やかしてくるのだから、私のバイトが楽しいという感覚がズレているのではないか?と思う程である。さて話は少し脱線してしまったが話を戻そう。今日はその居候最後の日なのだ。別に別れる訳でもなく、ただ私の長期休暇が終わっただけ。という訳である。ただ、それにしてもどこか寂しいものはあるのは不思議なものである。どうせあと数日もすれば、また絵里に会えてあの生活が出来るというのに、どこか寂しく感じる私がいた。私らしくないが帰りには絵里の家に寄った。所謂別れの挨拶というやつだ。
まぁ、なんども言うが本当に別れる訳ではなく私が地元に4日間だけ戻るだけなのだが…最後の花火が美しいように、最後の日はやはり毎回美しい。私は久しぶりに絵里に触れた。いつでも女子学生に触れられるという環境にいるとむしろ触らなくなるものである。最近はこうしたコミュニケーションもとっていなかったなと思い、私は絵里の足に触れた。私が言うのもなんだが陶器のように滑らかで日焼けも全くしていない白い絹のような肌に私は魅了された。以前にもなんども見ているはずなのに、いつ見ても魅了されてしまう。私も地元に帰る予定があり、電車の時間などもあるのでそれ程長い時間堪能している時間など無かったのだが、この時ばかりは時間なんてどうでも良いと思ってしまった。私は4日間は触れる事の出来ない魔性の脚に魅了されつつ、絵里に話かけた。話の内容なんて書いたってどうしようもない。それ程甘ったるいような。仕事帰りのサラリーマンが見たり聞いたりしたら、吐き気を催すくらいの甘ったるい会話であった。がお互い二年前と変わらない気持ちを持ち続けている。という事は確認できた。私にはそれだけで十分であった。私は実家に帰った所で各種アパレル会社から私宛に来ている書類に目を通したり、大学のレポートをまとめたり、デザインの作業も残っていたりと、書いているとキリがないくらい仕事が残っていた。そんな事もあってか、珍しくこのまま絵里と一緒にいて、アルバイトなんかもバックれてやめてしまおうか。等と少し考えてしまった。それ程までに絵里の肌や手足は魅力的であった。結果的には絵里もバイトがあるらしいので夕方で解散となった。私としては珍しく時間が過ぎるまで遊んでしまったなという感覚であった。嫌な事にその感は当たってしまい、電車には目先で乗り遅れてしまい、新宿で足止めをくらって到底予定の時刻に間に合いそうにもなかった。電車の車内では私のイヤホンから流れてくる音楽しか私には聴こえない。そう、ただ音楽を聴いているだけなのだ。それなのにここ一ヶ月の疲労のようなものがどっしりと私に襲いかかってきた。まぁ要するに絵里といる間に感じなかった疲れが今更来ているといった所であろう。今日は疲れた。疲れたがまだ仕事はたくさんある。大学生でアルバイト以外の仕事をしているやつなんて他にいるのか?と皮肉を言いたい気持ちになったが電車内なので、さすがに声には出さない。そうだ。疲れた時には甘いものが良いと昔。といっても本当に遠い昔だが父親からそう聞いた覚えがある。今日はあのアメリカ紙幣のカードを久しぶりに使って甘いものでも食べるかと電車の中でうぬうぬと考えていた。物事を考えていると時間が過ぎるのなんてあっという間なもので、気づけば私は地元の最寄り駅に着いていた。東京の新宿に比べれば悲しいほど質素だが、それでもカフェくらいはある。私はカフェで疲れているので甘いのを頼む。と店員に注文した。ランプの下で待っててくださいと店員のお姉さんに言われたので、それに従う。ここのカフェの店員さんはいつきても、みんな私の好みの女性である。実に居心地が良いのだが、そんな事を言っていたら絵里に怒られるのは確実だし、なにしろ私には目を通さないといけない書類や、仕事などが山積みなのである。仕方なく店内から出た。外はもう夜で少し肌寒いくらいであった。絵里の家から出たのが夕方なのでなにもおかしくないのだが、今の私にはタイムスリップでもしたかのような感覚だった。まぁいつも通りジャケットを着ているので寒さには強いのだが…言い忘れていたが、私は電車とバスで通学している。バスは年パス持ちである。さて、次のバスは何時に来るかと調べようとしたら、不意にさっき作って貰った甘いフラッペが目に付いた。容器には「お疲れ様です。明日も頑張ってください!きっと明日は良い日になりますよ!」と書いてあった。別に今日が悪い日ではないのだけどな。と内心ツッコミながらもカップからの激励はとても嬉しかった。カップが明日は良い1日になると予告してくれているのだ。きっと良い一日になるだろうと思い私は少し頬を緩めながらバスを待った。田舎のバスだ。大した本数もないので、しばらくはこの幸運のカップと過ごす事になるのだろうが、悪くないなと思い私はバス待ちのベンチへと腰掛けた。もう何も怖いものはない。明日は良い1日になるのだから。たった数百円で気分を良くしたバカな男はノロノロときたバスに乗り込んだ。
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