第4話 日常と非日常
今日は土曜日である。もちろん大学は休み、しかし私にはアルバイトがある。相棒のいないセミダブルを離れるとすぐに靴下とスラックスを履きアルバイトへ向かう準備をした。私のアルバイト先はコンビニである。そういえば何か有名な賞を取った小説の名前は「コンビニ」が関係する何かであったはずだななどと考えながら、私はアルバイト先へと自転車で向かっていた。私のアルバイト先であるこのコンビニは高校時代に友人に紹介してもらった所なのである。当時アルバイトとは無縁だった私を誘ってくれた鮫山という友人の誘いは当時の私からしたら迷惑極まりないものであったが、鮫山の話ではとても良いバイトだと聞いていたのでそんなに悪くも感じなかった為、返事を先延ばしにしていたら、あれよあれよという内にいつの間にかここで働いている私がいた。彼の言う通りここはとても居心地が良い。無論仕事であることは間違いないのだがそれにしても空調や環境、なにより鮫山という友人がいることによりとても安心感がある。もちろん彼と一緒に働けないときもあるが、その時はその時でまた楽しく新しい発見の連続であり、人生初のアルバイトはとても楽しいものとなっていた。この分鮫山には感謝してもしきれないような恩を感じている。鮫山は友人も多かったはずなのに、なぜ私のようなつまらぬ人間を選んだのかは疑問であるが、彼の推薦があった為、私は面接などほぼ無いに等しいような状態でアルバイトをすることが出来た。きっと彼は私がつまらぬ人間だからこそ私を推薦してくれたのだろう。もちろんコンビニのアルバイトをしている人がつまらぬ人間なのかというと、そのような意味ではなく、推薦するに当たってつまらぬ真面目人間のほうが都合が良かったのだろう。という私の予想である。本当の所はもちろん鮫山本人に聞かないと分からないのだが、いつも答えをはぐらかされる為、それ以上の詮索は避ける事にした。彼なりに気はずかしいような部分もきっとあるのだろう。
アルバイトで稼いだお金は私の愛してやまないファッションへと費やすことにした。正確には大好きなイタリアブランドへとである。それにキャンパスライフにはきっと様々な費用もかかるだろうと踏んで私は少しではあるが、貯金も始めた。自分で稼いだお金で服を買うことが初めてだった私は当時買った服のことを今でも克明に覚えている。それが例のアルマーニのスーツだ。入学式の時に着ていたアレである。もちろんシャツとタイもアルマーニであった為少々出費が多かったが、私の趣味なのだからという言い訳を言い聞かせて買ったのである。朝比奈久遠初めてのスーツがアルマーニである。社会人にこんなことを話したらどんな顔をされるのか、容易に想像は付くがそれは止めておこう。どうせ学生の内だけですから。とか適当な事を言って誤魔化せばいいのである。彼らは身分に合わないとかなんとか言ってくるがここは日本である。インドのバラモン階級制度など使われていない日本で、なぜそのような事を言われなくてはいけないのか私には理解が出来なかった。身分というのは生まれもったものであり、それが私と社会人の彼らで違うというなら私の身分は一体なんなんだと言いたくなる。みんな平等ではなかったのか?と。彼らの本心は悔しさや羨ましさなのだろうが、社会人として講釈を垂れるのならば「似合ってますよ」くらい言える余裕を持つべきではないかと思っている。なんてったって私が稼いだお金なのだから。社会人だろうがアルバイトだろうが、頑張って稼いだお金の価値は平等である。それをタバコに使おうがパチンコに使おうが、アルマーニのスーツに使おうが私の勝手だ。皮肉を言わせて貰えば私はパチンコにお金を落とす身分ではない。とだけ言わせて貰おう。とまぁ、このような具合にお金の使い道は自由であり、鮫山は給料日にはスマホアプリに課金をしている。これにはどうやら身分制度はないらしく、社会人も鮫山も同じように課金をし、ランク争いのようなものを繰り広げている。実に非論理的な身分制度である。社会人に負けるなよ鮫山!と思いながら私は今日もアルバイトを淡々とこなしている。もちろんロボットでも出来るような作業である。俗に言う単純作業というやつだ。つまらぬ人間である私には単純作業が似合っているのかもしれない。そして今日も無事バイトを終え帰路につく。相棒のいない寂しげなセミダブルのある自宅に…
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