想いをすべてマロングラッセに込めて。

やきもちやきの

未里みさと!」

 聞き慣れた、温かくて甘い声に私は笑顔で振り向き――そしてすぐにげんなりとした表情に変わる。

 私を呼んだ張本人の今の状況は、例えるのならフルーツタルトだ。色とりどりの大小様々な果物がギッシリと載ったヤツ。ただ一つ違うのは、フルーツタルトは甘くて大好きだけど、こんな状況になっているこの人は、ただただ嫌なだけだ。

 つまり、私を呼んだ張本人である、杉田薫すぎたかおるは今、両手に大量のカラフルなプレゼントを持っており、その周りをタルト生地のように女子が囲んでいるのだ。

 私がじっとそれを見ている間にも、彼の周りに人が増えていく。

「薫くーん! 私のチョコ受け取って!」

「私のもー!」

「俺のも受け取りやがれー!」

 ……きっと最後の野太い声は、冗談か聞き間違いよね、うん。

 いろんな子達が手を伸ばして渡す中、それを一つ残らず薫は受け取っていく。そして。

「ありがとう、美味しくいただくよ」

「きゃっ」

 とてつもなく甘い笑顔である。

 仮にも彼女の前でこれとは、少々、いや、だいぶ呆れる。

「……私、先行くね。遅刻すると嫌だし」

 少しだけいやトゲのある言い方をしてみる。

「え? あ、うん」

 返ってきたのは、あまりにもあっさりとした返事だった。


 ♡


「つくづく思うんだけど、杉田、今年もすごいね……」

 弁当をスクールバッグに仕舞っていると、向かいに座る友人に半ば呆れ気味に小さく声をかけられて、一瞬手が止まる。小さくため息を吐くと、ファスナーをしめて体を起こし、友人を見た。友人の視線の先には、色とりどりのプレゼントに包まれている薫がいる。

「うん、そうだね」

「あ、いたいた。杉田クーン!」

 教室のドアから他クラスの女子が薫に手を振っている。薫はそれに気がつくと笑顔でそちらにむかい、一言二言交わすとそのまま教室を出て行った。

 同じことが昼休み開始十五分の今だけでこれで三回目。休み時間ごとにこれが繰り返されている。もちろん帰ってきたら、両手には溢れんばかりのプレゼント、である。

「止めなくていいの?」

 ドアをじっと見つめてると、そう、気遣うような声をかけられる。止められるのなら止めている。

「めんどくさい」

 違う。本当は、変に束縛して重い女だと思われたくないだけ。

「いいの?」

「腹立つ」

 自分にも、薫にも。

「だろうね」

 少しだけ笑いの混じった返答に、私は息をこぼす。

「なーにが、ありがとう、美味しくいただくよ、よ。ほんと、どこの王子様気取りかっつーの」

「でも、その王子様気取りが好きなんでしょ」

「それとこれとは別なんですー」

 ブーッと唇を尖らせて、私は机に突っ伏する。

「もう、チョコ渡してやんないんだから」

「ちょっとちょっと未里。拗ねないの」

「あんだけ貰ってるんだよ? あのスタイルが維持できるように、優しい彼女からの心遣いよ、心遣い」

「えー?」

 本当にあげなくていいのなら、渡さなくてもいいかな。なんて思ってくる。あれだけ貰ってれば私が渡さなくても、気づかないんじゃないだろうか。むしろ、もういらないんじゃ? 私が渡しても、きっと薫は笑顔で受け取る。他の子のときと同じ笑顔で。……彼女ってなんなんだろう。薫は本当に私のこと好きなの? いつも人に囲まれている彼。誰からも好かれるのなら、もうそんな存在はいらないんじゃないのか。

「……もう」

 めんどくさい。うじうじ野郎な私も、ヘラヘラ野郎のあいつも。

「私って暇つぶしなのかなぁ」

  何の気なしに口からこぼれた言葉は、無意識から出た言葉だからなのか、空気を震わせるのと同時に心を抉っていく。暇つぶし。あまりにもしっくりくる言葉に、ああそうか、なんて納得してしまう。私は彼にとって暇つぶしの存在でしかないのか、と。

「それはない……と思う」

 自信なさげなあやの言葉にさえ縋りたくなるくらい、少しだけ私の中でいろんな限界が近かったのかもしれない。

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