そのえがおにおくるのは

「私って暇つぶしなのかなぁ」

 目の前には肩までのセミロングをハーフアップにした未里みさとが机に突っ伏して唇を尖らせている。その視線は、教室のドアに向けられている。先ほど未里の彼氏が、他クラスの女子に呼ばれて教室を出ていったのだ。未里の彼氏はモテる。学年どころか、学校中からモテる。今も彼の机やロッカー周辺がとてもカラフルに彩られている。……様々な女子からの贈り物で。

「それはない……と思う」

 食べ終わったお弁当を包んでスクールバッグに入れながら、返す。言い切れないのは、未里の彼氏である杉田薫すぎたかおるがあまりにも他の女子とも仲が良すぎるからである。この間も隣のクラスの女子と二人きりでどこかに遊びにいったとかで未里が沈んでいた。杉田曰く、買い物に付き合っていただけとのことで。まあ、嘘をつくのが天才的に下手な男な上に本人もそれを自覚しているので、多分本当にその通りなのだろうが、それはそれでどうよ、という話である。

あやはどうなったの?」

「え?」

「ワンコ君にあげるんじゃなかったっけ?」

「ああ……それがね」

 今朝の出来事を話すと、未里が苦い笑みを浮かべる。

「それはなんというか……。男子バスケ部もモテるもんねー」

「いや、まあそうなんだけどさ。立花君はモテるというより、構ってあげたくなるというか」

「あ、わかる。あのワンコスマイルを見ちゃうと、お菓子とかたくさんあげたくなるよね」

「そうそう。それで渡してる人が多いのかなって思う」

「思う、じゃなくて、思いたい、じゃないの?」

 未里がニヤニヤと笑いながら痛いところを突っ込んでくる。

「う……っ。まあ、そうとも言う、かな」

 ずっとドアを見ていた未里の目が、スッと細くなる。

「あ、噂をすればワンコ君」

「え」

 勢いよく未里と同じところに目を向ける。すると誰かを探すように教室を見ている立花君がいた。立花君は私と目が合うと、あのワンコスマイルを浮かべて大きく手を振ってくる。

「佐藤先輩!」

「呼ばれてるよ」

「……うん」

 私は早くなっていく鼓動をなんとか無視して机に手を置き、立ち上がる。するとトントン、とその手を叩かれる。振り向くと、未里が小さく微笑んで私を見上げている。

「アレ、持って行きなよ」

 瞬間、頰に熱が集まる。

「でも……」

「もう。今までの練習にずっと付き合ってたんだよ? 私。出来上がったのを食べては、アドバイスしたのにな」

「……」

 ギュッと拳を握りしめる。そうだ。この日のために、私はわざわざ未里に協力を頼んだんだ。無駄にするわけにはいかない。握りしめた拳を開いて、スクールバッグに手を入れる。そして取り出したのは、ピンク色の小さな紙袋。

「行ってきます……!」

「行ってきな」

 私が小さく頷くと、未里が手を振ってくれる。頑張ろう。

 紙袋を手に、私はドアに向かう。

「すみません、その……。バスケ部のことでちょっと相談があるんすけど、今いいっすか?」

「いいけど……私で大丈夫?」

 バスケ部にはマネージャーとしてしか関わったことがない。だからこその

 問いかけだったが、立花君はいつものワンコスマイルを浮かべて頷く。

「はい!」

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