第10話『おっさん、ロロアを鍛える』
グロウの家を出ると、周りには住民のほぼ全員が集まっていた。
全員と言っても100人にも満たないのだが。
相変わらず剣呑な視線を向けてくる者もいたが、それは敏樹個人に対してではなく、人といううものに対してのものだろう。
ただ、せっかく人が集まっているのだからと、敏樹はひとつ協力を依頼することにした。
「俺は今からロロアを助けに行きます」
住人たちがざわめく。
敵意の視線を向けていた者たちは戸惑い、もともと戸惑っていた者はさらにその戸惑いを深くしたようだった。
敏樹は気にせず言葉を続けた。
「俺には人の魔力を自分の力に変える祝福があります」
そう言って、右手を掲げた。
「皆さんの協力があれば、ロロアを救出出来る可能性も高まるでしょう。一割でいい。協力してくれるというのなら、その魔力を分けてください」
敏樹は握手を求めるように手を出した。
敏樹の能力は高い。
しかし、唯一弱点があるとすれば保有魔力量の少なさであろう。
それを補うために<魔力吸収>と<保有魔力限界突破>を習得し、他者から魔力を奪えるようにしている。
<
しかし、ここで住人たちに協力させておくのは後々のために良かろうと思い、敢えてこのような形を取った。
協力者は10人いればいい方だと思っていた。
最悪、グロウ1人は協力してくれるだろう。
そう思って手を差し出すと、先ほどまで敵意を向けていたトカゲ頭の男がひとり、敏樹の元へズカズカと歩み寄り、乱暴に手を取った。
「半分持っていけ」
「は?」
「魔力だ。半分持っていっていい」
「は、はぁ……」
男の言葉に戸惑っていると、男の後ろから声が聞こえた。
「ハヤクシロ!! アトガツカエテイル」
見れば住人の行列ができていた。
その様子に、一番驚いていたのはグロウだったかもしれない。
ゴルウはなぜか納得したような表情で頷き、列の後ろに並んだ。
「あー、俺も半分ぐらい持っていってくれていいよ」
「今日ハ、1日寝ル予定ダッタカラ、8割グライイッテイイゾ」
「あたしゃこの後家事があるから、2割ぐらいで勘弁してもらおうかねぇ」
「アイツが半分? だったら俺は7割いってもらおうか!!」
「ゼンブダ!! ゼンブモッテケ!!」
とまぁ随分と大盤振る舞いだった。
グロウは敏樹の傍らで、涙を流しながらずっと頭を下げていた。
結局30分程かけて、全住人から魔力をもらった敏樹のMPはとんでもないことになっていた。
そもそも精人というのは人類随一の保有魔力量を誇るエルフを超える存在なのである。
すべてが終わった後、住民は皆ぐったりしていたので、何かあったときのためにグロウとゴルウからは1割だけを吸収した。
集落の長でありロロアの祖父でもあるグロウは最後まで「全部持って行け!!」と駄々をこね、息子のゴルウと比較的余力のあった若い衆数人に取り押さえられていたが。
**********
「あの、トシキさん?」
笑いを噛み殺している敏樹を、ロロアは訝しげな雰囲気で見ていた。
「いや、ごめんごめん」
「私、なにかおかしなこといいましたか?」
「いやいや、そういうんじゃないよ。ただの思い出し笑い」
ロロアは不思議そうに首を傾げていた。
「さて、俺としっしょに来るとなると、それなりに戦ってもらうわけだけど」
「はい! なんでもします!!」
「よろしい。じゃあロロアはなにか武器が使える?」
「狩りをやっているので、弓であれば少々」
「ロロア、適正をみたいから<鑑定>しても?」
「はい。どうぞ」
実際には<情報閲覧>なのだが、一般に知られていない能力なので、敢えて<鑑定>ということにした。
*****
名前:ロロア
種族:獣人/蜥蜴族
年齢:40
状態:疲労
HP:54/100
MP:79/100
戦闘力評価:E+
58,901pt(非表示)
所有スキル
<弓術:Lv3>
<解体:Lv5>
<料理:Lv6>
<採取:Lv4>
<魔力感知:Lv5>
<魔力操作:Lv3>
<気配察知:Lv4>
<気配遮断:Lv1>
*****
「ふむう、弓術はそこそこ行けるか……。ポイントが結構あるから、いっちょ試してみるかな」
ブツブツと1人で何かつぶやいている敏樹の姿を、ロロアは不安げに見ている。
「あの、やっぱり足手まといでしょうか?」
「あー、そうだなぁ。俺にロロアの人生預けてくれる?」
「は? え? あ、あの……」
敏樹の言葉に、ロロアがうろたえ始める。
フードの下の顔はおそらく真っ赤になっていることだろう。
「ト、トト、トシキさんさえ、よろしければ、その、よ、喜――」
「俺には多分祝福を授ける力があるからさ。今回の作戦に応じた祝福を得ることで、今後の人生が大きく変わると思うんだわ。だから、さ」
「え!? あ、あー……。そういうことですかぁ……」
他者に祝福を授ける。
それは非常に稀有なことなのだが、ロロアは今、それどころではないらしい。
「で、どうする?」
明らかに落胆した様子のロロアの態度に気づかず、敏樹は決断を促す。
ロロアは何度か深呼吸をして心を落ち着かせ、目深に被ったフードの陰から敏樹を見据えた。
「すべてトシキさんにお任せします」
「よし」
敏樹は<
《パーティーに加えるメンバーを選択してください》
メッセージの後、タブレットPCのカメラが起動する。
「これでいいのか?」
敏樹は少し戸惑いながら、カメラをロロアに向け、シャッターを切った。
《ロロア(獣人/蜥蜴族 40歳)をパーティーに加えますか?》
「はい、と」
《ロロア(獣人/蜥蜴族 40歳)をパーティーに加えました》
「よし! 次は【スキル習得】っと……」
【スキル習得】で、メンバーを選択できるようになっていた。
そこで敏樹はロロアを選択し、スキルを習得させていく。
*****
389pt(非表示)
所有スキル
<弓術:Lv5>
<遠射:Lv2>
<剛弓:Lv2>
<短剣術:Lv3>
<打撃格闘術:Lv2>
<柔術:Lv1>
<小盾術:Lv3>
<解体:Lv5>
<料理:Lv6>
<採取:Lv4>
<魔力感知:Lv5>
<魔力操作:Lv3>
<気配察知:Lv5>
<気配遮断:Lv3>
*****
まず<弓術><気配察知><気配遮断>のレベルを上げ、攻撃力と射程を高めるため<剛弓><遠射>を低レベルながら習得させた。
万が一的に接近されたときのため、<短剣術><打撃格闘術><柔術><小盾術>を習得してもらう。
次に、<
<
敏樹は共有スペースを設定し、そこにコンパウンドボウと矢、サバイバルナイフ、鋼鉄の円盾などを収納した。
今回のメインウェポンはコンパウンドボウだが、万が一敵に接近された時の対策として、サバイバルナイフと円盾をいつでも使えるようにしておく。
「どう?」
「あの……なんか、変な感じです」
スキルを習得したり、スキルレベルが一気に上ると、知らないはずの知識が流れ込んできたり、やったことのない動きが出来そうな気がしたりと、戸惑うことが多い。
そこで今度は、新たに得た知識や技術を身体になじませるための訓練が必要となる。
「ま、その辺は訓練でなんとかなるっしょ」
敏樹は<管理者用タブレット>から【試験運用モード】を起動した。
「え? あれ?」
特に風景が変わったわけではないが、違和感を感じたロロアがキョロキョロとあたりを見回した。
【試験運用モード】にすると、敏樹を中心とした半径1キロメートル以内に、パーティーメンバー以外の生物は一切いなくなる。
視界に入っていないとは言え、虫や微生物の存在がなくなると、世界の雰囲気というのはガラリと変わるものである。
「じゃあ、今からロロアには新たに得た
「は、はい」
戸惑うロロアに、敏樹は【試験運用モード】の説明を行った。
「――つまり、ここで何年修行しても、モードを解除すればさっきの時点まで戻るってわけ」
「あの、それって意味あるんですか?」
「もちろんあるよ」
【試験運用モード】が終われば時間も状態もすべてが開始時点に戻る。
例えモード途中でいくら筋トレしようとも、モードを解除すれば鍛える前に戻る――というかモード中はいくら筋トレしようとも筋肉は発達しない。
モード中は疲れることも、腹がへることも、眠くなることもないのである。
しかし、全てがなかったことになるわけではない。
主に3つのものが得られると、敏樹は理解している。
まず最初に記憶。
時間は開始時点に戻るが、全てがなかったことになるわけではない。
【試験運用モード】中の記憶は普通に保持される。
次に経験。
これも記憶に近いものがあるが、例えばスキルで得た新たな技術を身体に叩き込んでおけば、モード解除後もその経験を再度トレースするだけで、未経験から始めるより格段に早くスキルを身体になじませることが出来る。
そして最後は意外なことにポイントである。
ポイントは経験を積むことで加算される。
ポイントに関する詳細は後述するが、モード中に経験したことが引き継がれる以上、その経験に基づいて得たポイントもどうやら引き継ぐことが可能なのだ。
ただし、モード中に習得したスキルは解除後に外され、消費したポイントは元に戻るようになっているので、新たにスキルを習得したり、スキルレベルを上げる場合はモードを解除しておく必要がある。
「というわけで、じゃんじゃん鍛えようか!!」
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