第4話『おっさん、管理者用タブレットを使う』
ゴブリンの魔石を吸収してMPを確保した敏樹は、一旦部屋に戻った。
じわじわとMPが減る魔力流出を止める必要があると思い、<情報閲覧>で調べた所、<魔力感知>と<魔力操作>が有効であることがわかった。
どちらも魔法を使う上では基本となるスキルではあるが、魔術を使う上ではあまり重要ではない。
下級魔術でいっぱいいっぱいの敏樹にとって、魔法の使用など夢のまた夢である。
また<魔力感知>は索敵にも有効であるが、敏樹には<情報閲覧>があるので、必要ないと判断したのであった。
「しょうがない、習得するか」
敏樹は<
これは、異世界へ行く前の準備期間中に町田から渡されたものであった。
異世界渡航後、さらに幾つかのメニューが追加されていた。
<管理者用タブレット>
1000億ポイントを投げ打って取得したこれこそ、敏樹が最も欲したものであり、これを手に入れるために難易度でベリーハードを選択していたのだった。
敏樹は<管理者用タブレット>のメニューから【スキル習得】を選択肢、<魔力感知>を100万ポイントで、<魔力操作>を500万ポイントで、それぞれレベルマックスの状態で習得した。
「おお、すげぇ」
体の中を巡る魔力を感じることが出来た。
「おわぁ、漏れとる漏れとる」
そして、その魔力がじわじわと漏れ出ているのも分かり、今度はそれを体内に留めるようイメージする。
「おぉ、出来たか……」
通常であれば体内の魔力の流れを操作するなどというのは、魔術士が何年、いや何十年とかけて習得する技術である。
それを敏樹は、<管理者用タブレット>で、ちょんちょんとチェックを入れるだけで習得したのだ。
とんだチートである。
1000億ポイントの価値は十分にあるといっていいだろう。
「スキルの確認もしておくか」
何の気なしに使った<
一旦家を出てガレージへ。
そこにはアメリカ製EVのSUV車が停められていた。
1000万円を有に超える高級車である。
敏樹は車に手を触れた。
……が、変化はない
「無理か……」
<
先程から敏樹が何の気なしにポンポンと使っているスキルだが、使用に必要なコストとして基本的にはHPかMPのどちらかが消費される。
魔法・魔術系のスキルはMPが、それ以外はHPが消費されることが多い。
ただ、一括りにHPといっても、スキルによって消費されるものは異なる。
体力を消耗するもの、精神力を消耗するもの生命力そのものを消耗するもの等様々であり、それがHPに反映されると言う形である。
そして、大抵のスキルはスキルレベルが上がればそれに応じて消費コストが下がってくる。
例えば<アイテムボックス>の場合はHPを消費され、収納物の体積や重量で消費されるHPが変わってくるのだが、スキルレベルがあがれば同じ容量に対して必要なHPが下がっていくのである。
スキルレベルは最低が1、最高が10であり、レベルが1上がるごとに消費コストは1割ほど減少していくことが多い。
ただし、幾つかの例外も存在する。
例えば<無病息災>だが、これには時間経過でHP/MPが回復する機能があり、一応ノーコストで発動する。
あえてコストをあげるとすれば経過する時間だろうか。
また<情報閲覧>もノーコストである。
<
このあたりの原動力について一度<情報閲覧>を使って調べてみたが、『非公開』との結果が出たので、敏樹はそれ以上突っ込んで調べることはしなかった。
翌日、敏樹は買い物に出かけていた。
昨日は結局あの後、夜中まで<魔力操作>の練習をしたあと、風呂に入って寝た。
いくらレベルマックスでスキルを習得したと入っても、それを十全に使えるようにするにはそれなりの努力が必要なのである。
一応寝ている間、無意識の内に魔力が流れ出る可能性を考慮し、魔石を多めに吸収しておいた。
そして予想通り、わずかずつではあるが、寝ている間は魔力が漏れていることがわかった。
これに関してはより練習を積めば、無意識下にあっても魔力流出は止められるようになるだろう。
買い物に出かけた敏樹は、まずホームセンターやスーパーを巡り、カゴ台車に積めそうな生活用品を追加で購入していく。
確定ではないものの、こちらの世界とあちらの世界を行き来できる可能性が高いので、カセットコンロやガスボンベ等、こちらの世界でないと補充できない消耗品や、その消耗品を使う製品を中心に揃えていった。
まさかこちらに帰ってこれるとは思っていなかったので、最初の買い出しではこれらのものをスルーしていたのである。
買い物がある程度終わった後、今度はバイクと車のディーラーをはしごして、それぞれ売約をすませた。
250CCのオフロードバイクと、660CCのオフロード自動車をローンで購入した。
敏樹は例の戦いの後、バイクの免許をとっており、限定解除も行っているので一応大型バイクにも乗れるのだが、今回は小回りを重視しての選択であった。
収納できない物をどうやって持っていくか、ということだが、おそらく転移の際に乗っておけば装備品として持っていけるのではないかと予想している。
駄目なら駄目で諦めるしかあるまい。
即時持っていける移動手段として、そこそこ高価なマウンテンバイクも購入していた。
支払いをローンにした理由だが、案の定銀行残高は使用したポイントに応じて引かれており、こちらに戻ってから追加で習得した<魔力感知>と<魔力操作>の分もちゃっかり引かれていた。
試しに銀行からお金を引き出すと、その分がポイントに反映されることもわかった。
バイクにせよ車にせよ現金で買えるだけの余裕はまだあったが、ポイントを消費する形になるので、頭金なしのローンにしたのであった。
では口座とポイントが完全に連動しているかというと、そういうわけでもない。
銀行から引き出した金額分のポイントは引かれるが、逆に入金した場合はポイントに反映されないことが判明。
こちらでお金を稼いでポイントを増やす、ということはどうやら出来ないらしい。
ただ、ポイント残高以上の金額に関しては、いくら下ろしてもポイントには反映されないので、敏樹は早い内に純金のインゴットを売りに出して、ポイントに影響のない現金を用意することにした。
なんならいまガレージにあるSUVを売りに出してもいい。
あれはSUVといっても悪路走行には向かないので、異世界では使い物になるまい。
とりあえずこの日の買物に使ったお金は、怪しまれない程度の量の金塊を、金プラ買い取り店に持ち込んで工面していた。
そして24時間のクールタイムが終了した。
まず敏樹は、自分の部屋を拠点として追加する。
帰ってくる度に庭に出ていたのでは、いつ誰に見られるともしれないからだ。
拠点となるポイントにはブルーシートを敷き、土足のまま帰れるようにした。
「さて、戻れますかね」
どうせなら実家にもう一泊し朝にでも転移すればいいのだろうが、敏樹としては一刻も早く確認したかったのだ。
右手はマウンテンバイクに、左手は荷物がいっぱいに積まれたカゴ台車にかけられている。
ちなみにこちらの世界でのカゴ台車の出し入れだが、荷物を積んだ場合はカゴ台車のみが収納され、積んでいた荷物はその場に残されることが判明した。
もしカゴ台車に積まれた物ごと収納できるのであれば、異世界で倉庫でも作って収納し、こちらの世界で取り出した上でそこに荷物を大量に詰め込んで異世界へ持ち込む、という計画を立てていたのだが、そこまで甘い話はないらしい。
「おっと、鍵をかけとかないと」
前回転移の際はこちらに戻ってくるつもりもなかったので、いつでも自分の部屋に誰かが入れるようにしておいたが、今後はちょくちょく帰ってくる可能性があるので、この部屋を開放して誰かと鉢合わせになるようなことがあってはなならない。
敏樹はブルーシートの外の床を汚さないよう、四つん這いでドアまで移動して鍵をかけ、再びブルーシートに戻ってマウンテンバイクとカゴ台車に手をかけた。
「じゃあ、行きますか」
敏樹は<拠点転移>を発動した。
次の瞬間、目の前の消しが変わり、敏樹は夕暮れの森の中に立っていた。
「うぇっぷ……なんじゃこりゃ……」
森に立つと同時に、敏樹は激しい目眩と吐き気に襲われた。
転移による影響、というわけではない。
<魔力感知>をいきなりレベルマックスで習得したことにより、この世界に満ちあふれている魔力を一気に感じ取ったからである。
しかしその気分の悪さも<無病息災>のお陰で一呼吸ごとに楽になっていった。
「こりゃ向こうじゃ魔術も使えないわけだわ」
試しに《炎矢》を使ってみると、放たれた炎の矢は勢い良く飛び、木の幹を半ばまで抉って焦がした。
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