第3話『おっさん、スキルを確認し準備を整える』

 タブレットのホーム画面に戻り【難易度設定】を選択。

 難易度は以下の通り。


 Paradise

 Very Easy

 Easy

→Normal

 Hard

 Very Hard

 Nightmare


【Paradise/パラダイス】

ポイントレート:1000分の1

 公爵家のイケメン三男に転生。ただ生きているだけで上位貴族の美女に囲まれる極楽ハーレムを形成できる夢のような人生。


【Very Easy/ベリーイージー】

ポイントレート:100分の1

 伯爵家の雰囲気イケメン次男に転生。優秀で兄弟愛の強い兄を補佐するだけの簡単な人生。下位~中位貴族の令嬢を中心としたハーレムを形成できますよ。


【Easy/イージー】

ポイントレート:10分の1

 そこそこ裕福な男爵家のフツメン長男に転生。領地を継いで内政に励むもよし。優秀な弟に跡継ぎを譲り気ままに生きるもよし。富裕層の平民を中心としたハーレムを形成できます。


【Normal/ノーマル】

ポイントレート:1倍

 豪商の奉公人として基礎知識を持った状態での転移。大らかで愛らしい当主の娘を射止めれば、あとは奉公人や平民のハーレムも夢じゃない!!


【Hard/ハード】

ポイントレート:10倍

 着の身着のまま辺境の都市に転移。選択スキルで人生が大きく変動する冒険モードです。冒険者として名を馳せ、ハーレムパーティーを作るもよし、商人として名を上げ、奴隷ハーレムを作るもよしという、ザ・異世界転移です。町田的に超おすすめ。


【Very Hard/ベリーハード】

ポイントレート:100倍

 人里離れた僻地に転移。スキルと行動の選択次第で開始早々に詰むことも? 上手く行けば早い段階で美人ヒロインに出会える可能性あり。ハーレムが出来るかどうかはあなたの努力次第!!


【Nightmare/ナイトメア】

ポイントレート:1000倍

 魔物がはびこる魔境に転移。ハーレム? 生きて人里に出られれば御の字ですよ。


「……なんでハーレム前提?」


 と、そこは置いておいて、注目すべきはレートである。

 町田おすすめのハードにすれば、10倍の150億ポイントから始めることが出来る。

 <言語理解>全部入りで10億払っても1割未満である。


「1000倍だと1兆5千億か……。そんなスキルあるの?」


 スキル一覧で所要ポイントが多い順に並べ替えてみた。


「10兆!?」


 なんと、10兆超えのスキルまであるようだ。

 規格外のポイントを持つ敏樹がナイトメアを選んですら届かないものだ。

 参考までに所要ポイントが高いスキルをいくつか紹介しておこう。


所持ポイント

1,438,560,571


10兆

□ 死に戻り


1兆

□ 復活

□ 国士無双


5000億

□ 武神

□ 賢神

□ 王者の風格


1000億

□ 管理者用タブレット


100億

□ 情報閲覧

□ 格納庫ハンガー

□ 無病息災


50億

□ 拠点転移

□ 座標転移


10億

□ 言語理解

□ 鑑定

□ アイテムボックス


 一部省略しているが、高額ポイントスキルは以上のようになる。


「ってか、ナイトメアで<復活>とったら前の戦いと変わらんなぁ」


 <復活>スキルは死亡時に所持金の半分を消費して設定した拠点で生き返るというものである。

 魔物のはびこる場所に独り放り出されて死ねば復活という状況は、もうお腹いっぱいの敏樹であった。


「とりあえずベリーハードぐらいで行ってみるか」


 町田女史おすすめのハードも悪くないが、やはりレート100倍は魅力的である。

 ハーレム云々に興味が無いわけではないが、敏樹が求めているのは――


『何より、魔物との血湧き肉躍るバトル、ですよ?』


 町田女史の声が脳内でリピートされていた。

 そしてチート無しでおよそ半年間魔物との戦いを孤独に繰り広げてきた敏樹にとって、チートスキルというのはあまりにも魅力的な提案だったのである。



**********



 その後1ヶ月の間、敏樹は様々なスキルを試した。

 習得したスキルは【試験運用モード】にしなければ発動しなかった。

 【試験運用モード】は開始時の敏樹を中心に、半径1キロメートルが完全に無人となる。

 例の戦いと違い、この試験運用モードでは建物等の破壊も可能だった。

 そして【試験運用モード】を解除すると、開始時点に戻る。

 時間も場所も、である。

 なので、好き放題暴れまわれた。

 試しにひたすら筋トレをしてみたが、トレーニング中も解除後もいっさい疲れることはなく、もちろん筋肉痛も起こらない。

 つまり、【試験運用モード】というのはあくまでスキルの試験にのみ可能なもののようだった。


 吟味に吟味を重ねていくつものスキルを習得した敏樹は、次にこの世界から姿を消すことの対策を取った。

 とりあえず親族や友人たちにはしばらく旅に出ると伝えてある。

 例の戦いの時も半年間旅に出ていたことになっていたので、特に問題はないだろう。


 飼い猫だけは心配だったので、甥と姪に猫の世話をすれば小遣いをあげるよう母にまとまったお金を預けておいた。

 小遣いの相場に関しては母の判断に任せることにする。

 もし望むなら、猫は兄夫婦に引き取ってもらってもいいと言っておいた。


 いくら旅に出ると言っても、1年も2年も帰ってこなければ心配になるだろうから、兄に宛てた遺言のようなテキストファイルを作成しデスクトップ画面に配置。

 PC起動のパスワードは設定せず、誰でも見れるようにしておく。

 PC内に保存していたお宝ファイルは今後必要ないとわかっていても捨てきれず、1TBのポータブルHDDに移し替え、異世界に持っていくことにした。

 元のHDDは物理的に破壊し、新しいHDDを換装し直しておいた。


 仮に失踪届を出され、死亡認定された場合、家は母に、敏樹の愛車であるアメリカ製EVのSUVや敏樹所有のPC家電各種は兄に、残りの資産は法律に基づいて分配するように記した正式な遺言状を公証人に預けておいた。

 それ以外の財産と言っても、先の戦いの時、死んで無為にポイントを消費するよりはマシと思い購入しておいた数百万円分の純金のインゴットぐらいのものであるが。



 次に、異世界へ持っていく物である。

 残念ながら収納系のスキルはまだ使えず、身につけたもののみを持っていくことが可能なようである。

 まず外せないのが、コンパウンドボウであろう。

 大手ネットショップTundraツンドラでは扱っていないような高性能のものを、敏樹はこの1年でいくつも購入しておいた。

 矢も持てるだけ持っていく。

 また、例の戦いでは使わなかったが、コンパウンドボウ以外の遠距離攻撃武器としてスリングショットと10ミリの金属弾も用意しておいた。

 元々腕力や握力に自信のなかった敏樹だが、筋トレを頑張ったことで得た筋力に身体強化系のスキルを合わせることでかなり有用であることがわかったのだ。

 

 次にトンガ戟。

 使い勝手はあまり良くないが、愛着のある武器なので持っていくことにした。

 例の戦いの時はサバイバルナイフを組み合わせていたが、都会の専門店で刺突に向いているダガーナイフを購入し、刃の部分を柄の先端に埋め込むように装着した。

 トンガの耕筰用刃も、グラインダー(研磨機)で研ぎ、ナイフ真っ青の切れ味を持たせている。


 続いて片手斧槍ハンドハルバード

 これは槍付きの斧頭を、鉄工所を継いだ同級生に頼み込んで作ってもらった。

 とにかく頑丈で壊れにくいように、という注文をつけたので、鋼鉄の炭素比率などはいい感じにしてくれていることだろう。


 そして使えるかどうかわからないが、日本刀も購入しておいた。

 これは完全にロマンである。

 一応剣術系スキルを習得すればそれなりに使えることは【試験運用モード】で確認済みだが、それが魔物相手に通じるかどうか、話は別だ。

 例の戦いを参考にするなら、オークぐらいなら楽勝、ウェアウルフ相手だと手こずる、と言った程度か。

 キマイラ等のボスキャラクターを相手にすると、刀のみではかなり厳しいだろうが、魔法などを組み合わせればまた違った結果が出るかもしれない。

 用意したのは打刀、脇差、小太刀、野太刀、大太刀であり、すべて刃の入ったものを許可を取って購入した。

 武器類の手入れに関しては便利なスキルがあるので、手入れ用の消耗品だけ買っておいた。


 他にも異世界生活で使えそうな非常食やサバイバル用品、生活雑貨の類を買い漁った。



 ――そして異世界転移当日


 敏樹は庭に立っていた。

 その傍らには業務用のカゴ台車があり、そこに荷物が詰め込まれている。

 装備品だが、例の戦いで愛用していた防刃パーカーとライダーパンツ、プラスチック製の胸部・背部プロテクター、ステンレス製のエルボー・ニーパッド、つま先に鉄板が入ったハイカットの安全靴、軍用ヘルメットと防弾バイザー、タクティカルグローブを身に着けている。

 さらに鉄工所の同級生に頼んで作ってもらった金属製の円盾を腕に装着。

 それとは別にタワーシールドも作ってもらったが、それはカゴ台車の中だ。

 その他の武器防具や荷物の類はカゴ台車に積んである。


「旅立ちにはいい日だな」


 母に請われて植えた桜の花びらが舞っている。

 春は別れと旅立ちの季節というが、もう初夏だ。

 今年は少し気象がおかしく、まだ桜の花が残っていた。


 タブレットPCがアラームを発し、画面上にメッセージが表示された。

 敏樹は表示された【許可】のボタンをタップする。


 次の瞬間、敏樹が立っていた空間を埋めるために空気でも流れたのか、庭に散らばっていた桜の花びらがふわりと舞い上がった。

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