第225話 新春高天原族家族会議

その3人は元旦の朝8時、唐突に野上家の玄関前に現れた。


そのうち渦巻の紋付き羽織袴姿の若者2人は高天原族王子で月からの観察者ツクヨミとその助手の思惟なのだが…聡介を驚かせたのはツクヨミが華奢な女性体から筋骨逞しい男性体へと変化している事であった。


なるほどね、これが「完全両性」ってことなのか。


と無理やり納得させられた処に2人の背後から出て来たのは薄紫の髪と眼をした振袖姿の若い女性。


彼女は出迎えに来た聡介と沙智の顔を交互に見てから眼を潤ませ、


「野上家の皆様、明けましておめでとうございます。私どもはここに家政夫として勤めておりますカミーユの兄妹で御座います。まことに勝手な申し出ではありますが、今日一日だけ兄をお借りしてもよろしいでしょうか?」


と丁寧に頭を下げる彼女の仕草に日本人よりも作法が完璧…と惚れ惚れした沙智は、


「そ、そういえばカミーユさん、うちに来てからちゃんとした休暇取ってなかったですね。

どうぞどうぞ外出をお楽しみ下さい!」


と慌ててダウンジャケットを羽織って出て来たところををツクヨミと思惟に両脇ホールドされ連行される形となったニニギを快く送り出した。


あの女性ひとは間違いなくニニギの母親、智持ちじさんだよな?


と昨年末、北関東のテーマパークで見せられた高天原族の地球移住の記録映像のクライマックス、天孫降臨と場面で胎内のニニギと共に地球に降り立った彼女の唇がぷっくりとした可愛らしい顔を起き抜けの夢の中で思い出して目覚めた時…


「当機は間も無くフランクフルト空港に着陸いたします」

という数か国語の機内アナウンスで自分は既に機上の人だということを自覚した。


「きららさん、そろそろ着陸だからシートベルト閉めて」と悟がインドムービーを見ながら寝落ちしているきららに向けて声を掛けるときららはぱかっと目を開け、


「は…首に白蛇巻き付けながら白い象神さんと踊るシヴァの女神さまになってたべ」


とつぶやきながら足を伸ばして寝られる(ここ重要)ビジネスクラスのシートの上で思いっきり伸びをし、慌ててシートベルトを装着した。


ルフトハンザ航空フランクフルト空港に到着した野上聡介、勝沼悟、小岩井きららの3人は今は旅人の天使ラファエル先導のまま税関で入国手続きを済ませ荷物受け取り場で自分のトランクを手に取り、送迎バスに乗り込み予約されていたホテルに向かった。


何故4人はチューリヒ直行便でなくフランクフルトフルトで降り鉄道でスイスに向かうことにしたのか?


それは悟がスイス国境近くの山間部にあるワイナリーに滞在している妹のみゆきに会いに行きたい。と希望したからである。


「妹とは7ヶ月も会っていないから元気にしてるか心配で…僕の我儘聞いてくれたラファエルさんに感謝です」


なんのなんの〜、とラファエルはホテルのラウンジでコーヒーカップ片手に


「チューリヒまでは山間部の鉄道で行った方が楽しいし、兄妹水入らずの再会を楽しむんでしよ。今日はしっかり休んで明日は旧市街見学してドイツサイズの1ピースがどでかいケーキ食べましょ」


とのたまう彼は天使だということを忘れるほどツアコンの兄ちゃんだった。



さて、時を遡って一週間前の元旦に迎えに来た母、智持はじめ大叔父のツクヨミとその助手の思惟と存命中の家族たちに連行されたニニギはすぐ近くの大江神社の鳥居を潜ると阿蘇高森町にある上色見熊野座神社の苔むした境内に瞬間移動した。


ここは阿蘇の主である地霊、健磐龍命が「ここなら我の力で誰にも見られません。ゆるりと過ごされよ」とセッティングしてくれた社である。


一行が正殿に入るとそこには人数分の膳とおせち料理、お雑煮、お屠蘇、ビール、ジュースが用意されていてめいめいが着座すると「まずは再会を喜んで」とツクヨミの音頭で乾杯した。


年末の監禁生活で美食に飢えていたツクヨミはすぐさま好物のかまぼこをパクついて「うむ、正月限定の妙に高価な飾りかまぼこは美味し!」と身を打ち震わせて叫んでいるその横でニニギは


25年ぶりに冷凍冬眠から目覚めた母、智持の肩を抱き「お久しぶりです、母様」と嬉しさと懐かしさで涙ぐんだ。


「ニニギちゃんも変わりなくてお母さん嬉しいわ」と息子の頭を撫で撫でした智持は「さ、もう1人の家族とオンラインでお話しましょ」と弾んだ声で両眼を光らせ正殿の壁を照らすとそこが縦50センチ、横1メートルの楕円形のモニターとなった。


モニターに映ったのはニニギによく似た銀髪銀目の彼の弟、ニギハヤヒ。


「や、やあ母様、兄上、久しぶり。ロンドンはもう夕方5時だよ…」と1300年前に日本から飛び出してアイルランドに定住した家出息子はモニター上でぎこちなく笑った…


「お前アイルランドの自宅じゃなくてどうしてロンドンにいるの?背後の装飾品も貴族の屋敷みたいに豪華だし」


驚いたニニギが指摘すると「じ、実は…去年暮れからここの屋敷の若様に気に入られてマルベリー卿ことクローヴァー男爵家に滞在しているんだ」


と実は敵組織の幹部の懐に入っている事を新年早々ぶちまけやがった。


これには伊達巻きを齧っていた思惟も


「あらま、戦いに関係ないところでこれは計算外でしたわよ」と目をぱちくりさせるしかなかった。

































































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