タタリの子……おまけ
小村ユキチ
追補
ふりかえる
キヨ婆様の家というのは、子どもたちの集会場になっていることが多かった。今日も誰かいるだろうかと、薪割りを終えたタケマルは階段を上って屋敷まで来てみたのだが、だだっ広い屋内はどこまでも静かに、ただかすかに揺らぐ風の音を、山から村へと透き通すばかりであった。どうやら、みんな揃って森の中へと遊びに出かけているようだ。
ならば、探しに行くのは面倒だな。
誰もいないだろうなと思いつつも惰性で中庭のところまで足を運んでみたタケマルであったが、しかし、軒先に予想外の人物が寝転んでいるのを発見して、二三度目をぱちくりと瞬かせた。
めくれかけた裾からだらりと伸びた、長い脚……スミレだ。スミレがこんな時間に村に居るとは珍しい。彼女は普段、猪狩りの男たちでも行かないような山奥に一人篭って虫を集めたり、川の上流で理解しがたい実験を行っているのが常である。下手すると彼女は、村に二日三日帰ってこないのもザラなのだ。
彼女の両手は畳の上に無造作に放り投げられ、紺の着物も肩から着崩れかけているなど、だらしないことこの上ない。この村でスミレほど行儀の悪い奴はいないのだ。とはいえ、スミレがカヤのようにしおらしくしていたら、きっとそれこそゾッとしないだろうとタケマルは思う。スミレは傍若無人でこそスミレである。
寝転ぶ彼女は目を閉じているようではあるが、寝息は立てていないあたり、やはり眠っているわけではないらしい。髪が濡れているところを見るに、
彼女の横に、タケマルはドカっと腰を下ろした。
「よー、昼寝か?」
パチっと、彼女の目が開いた。「あれ、今ってまだ昼?」
「んー……まぁ、夕方よりは前だろ」
スミレは、時間に対して恐ろしいほど無頓着だ。昔よく二人で遊んでいた頃は、空が暗くなり始めた頃でも平気で山中に入っていくものだから、帰りが遅くなって死ぬほど怒られた。村の男たち
がさつに切られた短い髪も、最初はものすごく揉めたのを覚えている。村の女の子の髪は人形用……だから勝手に切ってはいけないというのがこの村の決まりだったのに、スミレはあっさり「邪魔だから」と切り捨てた。
まったく自由人である。
そんなわけで、村の大人たちからのスミレの評価は恐ろしく悪い。迷信家であるカヤのおっ
が、しかし、意外とスミレは子どもたちには嫌われていない。
彼女の短い髪は、村の子どもたち、とくに女の子たちの間では、一種の憧れの対象である。スミレのことが、みんなには格好よく映っているようなのだ。ヨシも、髪を縛るのはスミレを真似しているのだと、ヨシ自身が言っていた。タケマル的にはなんだか納得の行かない話である。スミレの身勝手さに一番泣かされてきたのはおそらく彼だろうから。
いや、さすがに一番ってことはないかもしれないな。
「なぁ、人形の首切ってたのお前だろ?」ため息混じりに、タケマルはこぼす。「勘弁してくれよ、おかげで俺が変な妖怪作るハメになっちまったじゃねえか」
「クビソギとはヘボい名前」フンっと、スミレは鼻で笑う。「もう少しひねったのなかったの?」
「いいんだよ、んなもん。とにかく、おかげでアマコがえらい泣いてたんだぞ?」
「クビソギに?」
「
「あれはウチの馬鹿が焦ったのが悪い」と、スミレ。「いったい何を思ってその場に隠すかな。そのまま持って逃げりゃあいいのに」
ガクリと肩から力が抜ける。
(本当にこの鬼娘は……)
「あぁ……あれはそういうことだったのかよ」タケマルは再びため息。「どちらにしても切らせたのはお前なんだろうが」
「アマコ、ゲンに怒られるってビビってたって?」彼の指摘は無視して、スミレはあくびをかます。「あの
「んまあ……それはそうなんだがな」はるか昔にスミレを怒る気なんぞ失せているタケマルは、自分も彼女の隣に仰向けになって、屋根の裏に張られたクモの巣に焦点を合わせた。「なんでアマコ、あんなに怯えてたんだか」
「何もかも私のせいってな」と、スミレ。
「ん、なんだって?」
「昔な、アマコの目の前でチユリを思いっきり蹴飛ばしたことがあんのさ」スミレは答える。「それ以来もうアマコったら私のことビビっちゃって、全く顔なんか見てくれなくてね」
「それは知ってるけどよ……」首をスミレの方に傾けて、タケマルは聞く。「だからなんだ?」
「お前も相変わらずバカだな」かーっと、
「いってえな……」と、その手と払いのけようと手をかざす
そのまま揉み合うように片手同士で格闘するうちに、指が絡まりあって、タケマルの胸に二人の手が置かれる。
「私、昔はアマコにとっちゃあ優しいスミレ姉だったからね」と、スミレは説明を始める。「あの子は変なことしないから、お仕置きもいらなかったわけだ」
変なこととはようするに、スミレの気に入らないことという意味である。
「はぁ」
「そんな私が急に怒り狂って、妹蹴り飛ばしたんだぜ? そりゃあもうビックリするってな」
「まぁ、だな」
「いいか、私は普段は優しかったんだ。なのに、ドーンさ。しかも理由が、私が取ってこいっつった彫刀をアイツが忘れてアマコと遊んでたからだし」
「おいおい……」
「いいところに蹴り決まっちまったもんな。鼻血ぶーぶーでよ、あとでおっ父に大目玉喰らったよ」
くくくとスミレは笑うが、笑っていいものかと正直迷う。彼女の父であるギンジさんは、普段は優しいが怒ると怖い人だ。
「んまあ、つまりだ、アマコは姉や兄……つまり、年上の輩が怒るとおっかねえって、心のどっかに焼き付いちまってんのね」天井から目線を外さないまま、スミレは続ける。「子どもの印象なんてその程度さ。普段優しかった私がキレたのが恐かってんで、ゲンにも怒られるかもって思って震えてたんでしょ。自分じゃわかってないだろうけど」
相変わらずスミレの頭の冴えには驚かされる。普段は人とは全く違うことを考えているくせに、どうして人の気持ちはこうも簡単にわかるのだろう。彼女が淡々と語った言葉で、タケマルはやっと腑に落ちたというのに。
「ってお前、自分で言ってるけどそれ……」と、突っ込みを入れようかと思った矢先に、今日初めて彼の方を向いたスミレの顔に言葉がせき止められる。
不気味さを感じるほど、澄んだ瞳。
自由の色。
……スミレの顔は、正直とても綺麗だとタケマルは思っていた。髪が長ければ、イナミやヨシにも負けない器量の持ち主だろう。
タケマルにとって、スミレは特別な相手である。
幼いころ、泣きながら追いかけた彼女の背中。振り回されているはずなのに、誰よりも頼りにしていた、泣かないスミレ。その彼女を、いつの間にか遥か下に見下ろしている自分の身の丈に気がついたとき、胸の奥から湧き上がってきた泣きたくなるような熱さ……その火照りに、タケマルは未だに心をかき乱されていた。
かつて、タタリと呼ばれた疫病で村の人口が減ったとき、外にツテを効かせて呼んできた嫁さんというのが、スミレと、ゲンと、それにヨシの家の母親であるという。その子どもたちは、みんなかなりの器量良しだ。だけどそんなものスミレは気にも留めていないのだろう。彼女はいつだって誰よりも特別だ。
タケマルとスミレは、同じ年に生まれた二人の子どもである。流行り病で村の人が半分以下にまで減ってからの、最初の子どもなのだ。だから、お前たち二人は結婚するのだと村の大人たちには言われてきたし、タケマル自身、昔はそうなるものだと思っていた。
だけど……。
スミレとの付き合いが一番長い、彼にはわかるのだ。
スミレは誰かと結婚とか、そういうタマじゃない。
スミレは一人だ。
今も昔も、これからも……。
それが、タケマルの結論だった。
スミレが顔を、鼻の先にまで寄せてくる。
何も考えず、片手をその頭に乗せる。
いつしか見つめ合ったまま、スミレの手が、彼の胸から下に向かって行って……。
やばいと気がついた頃には、遅かった。
キュッと、全身が縮こまる。
「……っぉ!!?」
「なにを悶々してやがるんだか」カラカラと、スミレはイタズラっぽく笑う。「カヤんところ通ってんでしょうに」
「あ、あぁ……」起き上がり、痛みに
「いやーエラい。初めてお前を格好いいと思ったね」スミレは起き上がらないまま、バシバシと彼の背中を叩く。「ま、さっさと子どもを作ってくれ。祝いの席くらいには顔出すよ」
「顔出すだけかよ……」
カヤとのことは、二人で相談して決めたことだった。スミレとの結婚という無理な重圧を取り去りたい彼と、ゲンはヨシと結婚するべきと思っているカヤの、両方の利害が一致したのだ。カヤもまた、村全体の跡取りとなるであろうゲンの相手は村の血が濃いほうがいい、とかいうよくわからない理屈を持つ一部の大人に色々と言われてきたらしい。血筋とか、その手の考え方が馴染まないのは、きっとタケマルもスミレの考え方に影響されているからか。
もちろん、体が弱いカヤに身重の負担をかけるのは気が引けた。だがやはりこれは、こればっかりはヨシに頼むわけにはいかない。ゲンはヨシと一緒になるべきというのは、三人を小さい頃からずっと見てきたタケマルも同意見である。
そんなわけで、ここ最近夜は二人で楽しくやってきていたのだが、スミレにはいつバレたのか。
「あぁ、そういえば」股間を押さえつつ、タケマルが切り出す。「なんで人形の首なんか切ってたんだ?」
「大したこっちゃねえ」スミレはまた、目を閉じる。「首が取り替えられるようにできるか試してたのさ」
「取りかえる?」
「胴側に細い棒を埋め込んで、首の方に錠前の原理で穴空けてさ。そしたら運搬の段階で首がもげるとか、変なこと気にする必要なくなるし、おもちゃとして面白いかもと思ったってわけ」
「相変わらず突飛なことを考えてんな……」
「ところがあの人形首が細すぎて、穴開けると縦に割れやすくてね。何度も割っちまってるうちに数が
スミレが寝たままごろっと後ろを向いたのに合わせて、タケマルも振り向く。誰もいない……と思ったのも束の間、障子の影から困り顔の、綺麗な女の子が顔を出した。
「おぉ、チユリぃ」タケマルはニッコリと笑ってみせる。「いたのか」
「あの……ごめんなさい」チユリは、姉に向かってゆるく頭を下げる。
「ごめんってのは立ち聞きにか? ヘマした方か?」と、スミレ。
「えっと、どっちも……?」
「適当言いやがって」
「だって立ち聞きする気はなかったし」スミレの顔色を伺いつつ、チユリは少しだけ抵抗する。「二人で話してるから、邪魔しちゃいけないのかなって思ったの」
「だろうな。空気読めて偉いぞ」
「あれ? 怒ってないの?」
「誰が立ち聞きに怒ってるなんて言った?」スミレはヘラヘラと妹をからかい続ける。「強いて言えばお前の馬鹿さに呆れている。そこで聞いててなんで私にバレないと思った?」
「……いじわる」と、不安げにニヤリと笑う彼女の顔を見ると、なんだか不憫に思えてくる。本当のチユリはおしゃべりで活発なことを知っているからだ。スミレだってそれを重々に承知しているのだろうなと考えると、やっぱりひでえやつだなと言いたくなるのだが、チユリ自身がスミレを慕っているのだからタチが悪い。
彼女の素を知っているのは、スミレの他は、きっとタケマルとキヨ婆様と、それにマキ姉くらいだろう。
チユリの立場は、村ではちょっと複雑かもしれない。
今村にいる子どもたちは、大人たちには新しい世代と呼ばれている。境目となっているのはマキ姉だ。疫病のあと、村で最初に生まれたのがタケマルとスミレなら、マキ姉は生き残った人たちの中の最年少であったらしい。他の子どもはほとんどが死んでしまったようだ。そのせいで、マキ姉は小さい頃から村の人手を埋めるために役割が振られていた。つまりは、タケマルとスミレの世話である。スミレの世話はさぞかし大変だったろう。
スミレは自立が早かったために、ゼンタくらいの年の頃には既に傍若無人な自由人と化していた。そのあたりで生まれたのが、カヤとゲンだ。カヤの母はカヤを産んですぐに死んでしまったため、ゲンの母が二人分の乳を与えていたのを微かに覚えている。
ヨシも一年もしない間に産まれてきたし、ヤキチとチユリ、その先もドンドン続いた。あの頃のこと、よく覚えている。次々と生まれてくる新しい子どもたちに、言い知れない不安と期待を感じていたものだ。スミレはあまり興味がなさそうだったけど、妹ができたときには確か、少しだけ喜んでいたはずだ。
ともかく、年長三人組の中で一番年下のヨシが両の足で立ち始め、ちゃんと喋るようになった頃には、
で、彼らがその三人の面倒を任されたころにはまだ、母親……シズさんの腕の中で指をくわえていたのがチユリである。ヤキチに関しては、当然タケマルたちに世話が任される可能性もあったのだが、あのころのアイツは飛び切りの甘え虫で、母親のいないところに行くなどありえないといった
ところで、スミレが子どもたちの面倒を見られるのかというと、もちろんそんな訳もなく、あの頃タケマルとスミレが一番怒られた理由というのが、子供の面倒をほったらかして遠くに行ってしまったからというものだった。これに関してはタケマルは少しだけ弁明したい思いがあった。彼はいつも、スミレを止めようとはしていたのだ。しかし、スミレは「ほっとけ」とだけ言って、どんどん一人で進んでいく。
タケマルにはその背を追いかけないことなど、できなかった。
彼もまだ幼かったのだ。
大人はみんな忙しそうで、マキ姉と遊べる時間も少なくなっていく中、誰に頼ることもなく生きていけるスミレだけが、彼の心の支えだった。スミレの圧倒的な行動力に振り回されながらも、何度となく泣かされながらも、その強さに、頼らざるをえなかったのだ。それくらいスミレに置いていかれることが、たまらなく寂しかった。スミレも気が向いたときは他のみんなで遊ぶこともあったのだが、彼女は周りのために自分を曲げるということを知らないので、結局最後は一人でどこかへ行ってしまう。体力的に見合っている彼以外は、面倒だからと放ったらかす。幸いカヤたち三人は聞き分けが良かったので、そう困ることもなかったのだが……。
タケマルが置いていかれるのを恐れたように、カヤも、ゲンも、ヨシも、置いていかれるのは嫌だろうなと気がついた頃から、少しずつスミレと一緒にいる時間が減っていき、かわりにあの三人と遊ぶ時間が増えた。
その頃にスミレが連れまわすようになったのが、妹のチユリである。スミレはチユリを連れ出しはじめてから、ますます他の子たちと遊ばなくなった。それは必然的に、チユリも他の子たちとほとんど遊ぶことがなかったということを意味する。
つまり、チユリのことをよく知っているのは、タケマルとスミレの二人くらいしかいないのだ。しかもチユリは、スミレがいないときは大抵マキ姉のところに行くものだから、なおのこと村の子たちと話す機会が少なかった。もちろん、だからといって仲が悪いわけはない。結局はみんな同じ村に住んでいるのだから、気まずくなるようなことはありえない。ただ、共通の会話がないから、話しにくいというだけのことだ。いつもの型にハマれないという、それだけである。
チユリは最初から最後まで、スミレから離れなかった。
スミレとカヤたちの間を行き来していたタケマルにとって、チユリはなんだか、ほかの誰よりも捨て置けない、さみしがりな妹のように思えた。実際、彼女はよくスミレに泣かされてはタケマルの背中に逃げていたし、たまに彼がスミレたちのところに顔を出すと嬉しそうな顔をしてくれた。だから本当は、チユリももっとみんなで遊びたかったのだろうが……スミレがそれを許さなかった。
スミレもまた、チユリに対してちょっと歪んだ執着を持っていたのだ。
スミレは、ソウヘイくらいの年の頃には、この山の隅々まで探索し尽くしていた。スミレは道に迷わない。どれだけ森へ深く入っていっても、スミレは必ず正しく村に帰ってくることができるし、一度行ったことのある場所ならばどれだけ遠くてもたどり着ける。おかげで彼女はいくらでも冒険ができてしまったし、タケマルやチユリもヘトヘトになってそれを追いかけるハメになってしまったわけである。スミレのあの特技は正直羨ましかった。誰だって優れたものには憧れる。絶対的な方向感覚……スミレだけが持つ、彼女の
と、最近まで彼は思っていたのだが……。
スミレによると、どうやらチユリにも、道に迷わず帰りつく能力は備わっているらしい。だからこそ、チユリはスミレの無茶な冒険にも付き合えたようだ。流石は姉妹といったところなんだろう。二人とも母親に似ているから、もしかしたらシズさん譲りの才能なのかもしれない。あの人は体がカヤよりも弱いから、冒険なんてできないだろうけど。
考えてみれば、チユリもずいぶん大きくなった。そろそろ結婚の話も出てくるだろう。姉がこんなだから、チユリはシズさんからの期待の眼差しが半端じゃない。そこはちょっと可哀想だ。「お前はスミレとは違うわよね?」なんて目で睨まれてしまっては、いくら親子とはいえ
そんな彼女も、最近は村にいることが多くなった。年追うごとに体力が増していくスミレに、いよいよついて行けなくなったらしい。まあ、仕方がないだろう。今のチユリはヨシやカイリと仲良くし始めているようだ。ヨシはもちろんだが、カイリがそういうところで頼りになるっていうのはありがたい。
「んー、よし、久しぶりに三人で赤山行くか」唐突に、スミレが馬鹿なことを言い出した。赤山とは、なぜか木が生えず、赤っぽい土に覆われている小高い山のてっぺんである。あそこは景色はたまらないが、ここからはかなり遠い。
「はぁ? 今から?」タケマルは吹き出す。「お前なぁ、帰りが真っ暗になんだろうが。俺この歳になってから怒られるの嫌だぜ?」
「はは、でもチユリは行くよな?」スミレは立ち上がり、意地悪な笑いで妹を振り返る。「ていうか、来い。ちょいと見せたいものがある。それともヤキチに尻を眺められて悦に入ってたいか?」
「ううん、行く」チユリは首を振ってから、頷く。
「おいおい……本気で行く気か? あそこまで登るのは大変だって……チユリはやばいだろ」
「だろうね」なんて言いながら、スミレは迷わず歩き出す。「足元暗いからなぁ……チユリじゃ帰ってくんのきついだろうな」
「だからよ……」この時やっとスミレが何を企んでるかわかって、はぁっとため息をついた。「お前って本当にヤなやつだな」
「帰りはちゃんとおぶってやれよ、昔みたいにな」スミレは笑う。「ほらほらさっさと行くぞ。帰りを遅くしたくないんだろ?」
呆れた気持ちで、チユリを振り返る。
柔らかそうな頬が、抑えきれない嬉しさで、吊り上がっていた。
この顔にタケマルが逆らえないことを、スミレはよく知っているのだ。
「……おっし」立ち上がり、いつものようにタケマルは、片目だけグイっと釣り上げて笑ってみせた。「行ったろうじゃねえか。久しぶりに三人っきりだ」
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