第2話 犠牲について
また、私のために尊い命が散った。
我々は生まれたその瞬間より、自身の維持のために他者を犠牲にする事を強いられている。それを拒絶するには、他者の為に自身を犠牲にする他ない。
そもそも、私には他者を犠牲にしてでも存在する価値があるのだろうか。私の価値ははたして、今まで犠牲にしてきたもの達と等価だと言えるだろうか。
食事をする度、この思いが常に私の中で渦巻いている。そしてそう考えるほどに、食事というものがあまりにも罪深いもののように思われ、しばしば吐き出してしまうことがある。
では、犠牲の定義とはなんだろうか。
何かの為に失われたものは全て、犠牲になったと言えるのだろうか。私にはそれで全てを括ってしまうことは、少々違和感があるように思われる。
つまり、失う側の本来の意思に反している場合こそが犠牲にとなり、対して全くの合意の際にはあくまで、失う側の自己決定によるものでそれは自身が最も強く望んだ、本来あるべき状態だ、と言えるのではないだろうか。
あるものは捕食側を生かす為、あるものは不要な自身の一部を排除する為、或いは捕食される事そのものに対する快楽思想。
生憎私は、まだその内のどれとも出会ったことがない。もしかしたら既に出会っていたかもしれないが、今となっては闇の中だ。
だから私にとっては全てがエゴであり、犠牲なのだ。
では、犠牲者に対して捕食者である我々ができる事はあるのだろうか。祈る、感謝する、忘れない。どれも行為の対象が犠牲者であるというだけで、捕食側が罪の意識を紛らわすための自己満足であろう。
犠牲者の思いはただ一つ、食べられたくないただそれだ。故に犠牲者なのだ。
すると、一度食べたものを吐き出すという行為はあまりにも愚かな行為だと言えるだろう。我ながら情けない限りだ。
だがもう同じ過ちを繰り返すことない。
私は決めたのだ。
いつか全てのものが、自らの意思で私の糧となる事を望むような存在になることを。
それでようやく清々しい気持ちで食事ができる。そしてその為には、さらに多くの犠牲が必要だろう。
しかし、立ち止まってはいられない。
一刻も早く、より高みへ…。
「博士。先日観測に成功したブラックホールの件でお話が。」
「あー、あの不可解な現象が観測された。」
「ええ、既に吸収した一部の天体をそのままの状態で放出する、という謎の現象がしばらく確認されなくなっていまして…。」
「ああ、聞いてるよ。それでその後は?」
「それがですね…。突如爆発的に質量が増加し始めまして。」
「……そ、そうか。それで…。」
「はい…。コンピュータの試算によると、このまま行けば20年後には遠く離れたこの地球も飲み込むほどの大きさになるようです…。」
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