ふとした拍子の短編集

乾ぶり

第1話 蹂躙の果て

 敵の攻撃が街を焼いた。

 既にこの地上には人の気配はなくなっていた。




 世界征服を目論む武装集団<ファイア>。

 五年前に総統アルタによって設立されたこの組織は初め、小さなテロリスト集団でしかなかった。しかし彼らは、月日を経て着実に勢力を拡大。

 発展途上の国々の軍部、政権を次々に掌握していった。


 この事態を重く受け止めた先進諸国は対ファイア連合軍を組織。

 いがみ合っていた国もこの共通の敵を打倒すべく手と手を取り合い、惜しみない協力関係が築かれた。

 優秀で士気の高い兵士達、最新の設備と兵器、あらゆる方面からの援助。

 かつてない規模で組織されたこの連合軍は人類の総力と言っても過言ではなかった。


 そして、人々の希望と誇りを胸にファイアへの総攻撃が始まった。

 結果は余りにもあっけないものだった。

 連合諸国も予想していなかった程に。


 我々の敵は強過ぎた。


 まず、総攻撃の合図から5分後には連合軍の設備と兵器のシステムを完全に掌握。

 続いて連合軍に支援していた団体へ支援を打ち切らせる旨の脅迫状が一個小隊付きで送られた。

 既に戦地へ乗り込んでいた兵士達は奮闘虚しく全員生きたまま捕縛され、各々本国へ強制送還された。帰ってきた彼らに話を聞くと、見えない敵に捕まっただとか、手榴弾が破裂したかと思ったら眼球以外動かなくなっただとか、巨体な蛇に縛り上げられただとか、とても正気とは思えない言動を繰り返したため全員精神病院行きになった。


 しかし、それから我々が彼らの証言は錯乱した妄想ではなかったと理解するのに、時間はかからなかった。

 大方の発展途上国を制圧したファイアは遂に先進諸国への攻撃を開始したのだ。

 その攻撃方法は千差万別、多種多様。

 全世界を相手にしているとはいえ、これ程の力を持つ必要があるのかと疑いたくなるレベルだ。

 はたから見れば先進技術の博覧会だった。

 だが、それらをまともに受けている我々にとっては正に地獄絵図だ。

 技術大国の誇りもへったくれもあったものではない。

 そんな間髪入れない総攻撃でありながら犠牲者は殆ど出なかった。それがまた不気味だった。



 先進諸国への総攻撃開始から2日後。


 世界はファイアに降伏した。


 我々はこれからどうなるのだろうか…。




「世界中のみなさんこんにちは。私がファイアの総統アルタだ。先日の降伏宣言を受け、本日より私が全世界の支配者となった事をここに宣言する。私の命令は絶対だ。逆らうものには容赦しない。我々の力は君達もよーく知っているだろう。くれぐれも命を無駄にはしない事だ。それでは最初の命令を言い渡す。君達はこれから…」


 就任宣言から1ヶ月後、その日の空は夥しい数の飛行物体に埋め尽くされていた。


「総統いよいよですね」

 司令室の窓から空を眺めながら、側近が興奮気味に言う。

「ああ、そうだな。全構成員に繋げてくれ。」

「はい、分かりました」

 側近がマイクをオンにする。

「司令室より総統のお言葉である。全員心して聞くように」

 ファイアの構成員達が一時作業を中断する。


「構成員の諸君、総統のアルタだ。諸君らのお陰で計画通りにこの日を迎えることができた。心より感謝している。」

 サイボーグ達が声を振り絞り熱狂する。

「この5年間我々は今日のために必死で準備をしてきた。今日を思えばこそ私は諸君らのため全力を尽くし、そして諸君らは私のために全力を尽くしてくれたのだと思う。」

 高性能のAIが搭載されたマシン達がこれに応えんとして、地響きのような駆動音を鳴らす。


 その時、上空にある飛行物体の一つが口を開け地上に向かってレーザーを照射しあっという間に街を一つ焼き尽くした。

 しかし、犠牲者はない。


「ふっ、馬鹿め。既に全人類の地下への収容は完了している。もう何も気にする必要はない。さあ諸君」




「地球を守るぞ。」








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