第38話 ルカは、運が、よかったね
最初に仕掛けたのは、エリシャだった。
両腕に光剣をきらめかせ、一息に距離を詰める。
左右から、二対の刃がルカに迫った。
ルカはすばやく後退し、真っ二つになることを免れる。
空振りしたエリシャの剣は、あたかもそれを想定していたかのごとく、一瞬の遅滞なくルカに襲い掛かる。
かろうじて、ルカは剣でエリシャの二刀を防いだ。
ルカの長剣を、エリシャの剣がハサミのようにねじり上げる。
ルカは腹部に衝撃を受けた。
エリシャの蹴りだった。
ルカは後ろへ飛ばされる。
尻もちをついた。
猛然と駆け寄るエリシャの足元を、ルカは長剣で薙ぎ払う。
エリシャは背後に跳んだ。
その隙に、ルカは立ち上がる。
すでに呼吸が乱れているルカに対して、満身創痍のはずのエリシャは、悠然とたたずんでいる。
エリシャは勝ち誇ったようすで言った。
「ルカはあたしに絶対勝てない。
もう、あきらめたら?」
「あきらめて……どうなるの?」
「ルカとそのお仲間がみんな死ぬだけ」
「そんなの、イヤ!」
「なら、もっとがんばってみたら?」
「やってるよ!」
「それで?
バカバカしいから、とっとと終わらせるよ!!!」
エリシャが光球を放った。
ルカは地に転がって、避ける。
エリシャは光球を放つと同時に、宙に跳んでいた。
ルカの頭上から、二条の光が空を裂いた。
不自然な体勢で、光の刃をかいくぐる。
脇腹が焼けるように熱くなった。
よけたはずの刃が、かすめたようだった。
地に降り立ち、エリシャは舞うように光剣をふるった。
ぎりぎりでエリシャの剣をはじき返しながらも、ルカはたちどころに、壁際に追い詰められた。
背中が湾曲した壁にぶつかる。
エリシャは上下に剣を構え、同時に斬りつけた。
切羽詰まったルカは、エリシャの懐に飛び込んだ。
ルカの長剣が、エリシャの胴体を貫通する。
エリシャはすばやく背後へと跳んだ。
体を貫いていた剣が抜ける。
エリシャは剣を振り上げた。
が、それが限界だった。
腹部に、焼け焦げた、醜い穴が大きく開いていた。
力尽き、両膝を地面についた。
ルカは背後の壁に目をやった。
エリシャが最後に放った斬撃の跡が、深々と岩を切り裂いていた。
血相を変えたルカは、エリシャに駆け寄った。
「どうして、わたしを斬らなかったの?」
うるさげにエリシャは目を閉じた。
「手元が……狂っただけ。
ルカは、運が、よかったね」
血の気を失い、死人の顔色を呈したエリシャは、ぐったりと仰向けに身を横たえた。
ルカはエリシャのそばにくずおれた。
蒼白な顔は、エリシャの姿を恐れ、こわばっていた。
「エリシャ……!
そんなつもりじゃなかった。
でも、わたしはどうしても、負けるわけにはいかなかった……」
震えるルカを一瞥し、エリシャはそっけなく目をそらした。
致命的な傷を受けたとは到底思えないほど、毅然としていた。
「とっとと消えてよ。
あたしに勝ったことがうれしいの?
目障りだよ」
ルカは言葉を失った。
エリシャはごろりと転がって、胎児のように体を丸めた。
「ルカの顔なんて見たくない。
みんなみんな、大嫌い。
ルカは、一番嫌い。
最期くらい、あたしを一人にしてよ……!」
力なくつぶやくエリシャを前に、ルカは何もできなかった。
ただ、エリシャの前から姿を消すことだけが、自分にできる唯一の慰めだと信じるしかなかった。
ルカは力の入らない足を叱咤し、エリシャを残して歩き出した。
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