第34話 キミがすべきことは、わかっているよね
生き残っていた下級ヴァリアンツに尋問した結果、ヴァリアンツの本拠は、富士山麓に存在することが発覚した。
「こんな細切れになっても、まだ生きてるなんてすごいよね。
プラナリアみたい」
尋問を終えたエリシャはかたわらのトビヒトに微笑んだ。
地面に散らばるヴァリアンツの肉塊は、苦しみ悶えているようにけいれんしている。
無邪気に喜んでいるエリシャに、ルカは身の毛がよだつのを禁じえなかった。
トビヒトは冷静にうなずいた。
「ことは急を要するようだ。
燃料が持つか心配だが、急ぐに越したことはない。
ヴァリアンツのアジトを奇襲しよう」
ヘリはヴァリアンツから聞き出した地点へと向かう。
「さっきは本当にありがとう!
ルカがまたあたしを助けてくれたね」
目を輝かせ、エリシャはルカに礼を言う。
「いいよ。
そんなこと……当たり前のことだから」
わずかに微笑み、ルカは言った。
喜ぶエリシャを見て、ルカの胸が重苦しくなる。
トビヒトがいくぶん、皮肉な調子で言う。
「そう、誰でも当たり前のことをやらなければならないとわかっているが、なかなかできないものだ。
ルカさんも、たいしたものだ。
しかし、気を緩めるのはまだ早いぞ。
まだ、次がある。
キミがすべきことは、わかっているよね」
トビヒトを険悪な目つきで一瞥し、ルカはうなずいた。
***
ヴァリアンツの本拠に到達するには、丸一日かかった。
ヘリを近隣の自衛隊駐屯地に着陸させ、そこから待機していたレンジャー部隊とともに目的地を目指す。
ヴァリアンツ対策司令部と連携をとるため、トビヒトは駐屯地に残留した。
一方、エミティノートは重傷を押して、ピアリッジに同行することを希望する。
エリシャ、ルカ、エミティノートがヴァリアンツの本拠に乗り込むこととなった。
レンジャー部隊が、ヴァリアンツから聞いたアジトの位置付近を丹念に捜索する。
すると、木々の生い茂る森の中に、人が一人通れる程度の洞穴が、見つかった。
洞穴はつい最近、掘削されたものらしく、周囲には真新しい土塊や、がれきが散らばっている。
しかし、洞穴の壁はガラスのようになめらかで、高熱で岩を融解させて掘り進んだようであった。
ライトの明かりを頼りに、そこから下ること、数時間。
突然、一行は巨大な空洞に出くわした。
「大量に潜んでいるわ、気を付けて!」
エミティノートがささやく。
しゃべる猫に、気味悪そうな目を向けるレンジャー部隊は、戦闘態勢をとり、慎重に歩を進める。
同時に、四方八方からヴァリアンツが襲い掛かった。
銃声が空洞にこだまする。
エリシャが光剣で周囲を薙ぎ払う。
ルカは洞穴の入り口に飛び退った。
ルカの動悸が激しくなった。
めまいが起こり、失神しそうになる。
数え消えないほどの逡巡を繰り返し、たった一日が気の遠くなるような長さだった。
だが、ついに時は来てしまった。
震える手で装置をつかみ、ルカはボタンを押した。
……何も起こらない。
膝が砕けそうな安堵に浸りかけたルカを、次の瞬間、ムチうたれたように衝撃が打ちのめした。
不意に、エリシャの着こんでいた戦闘服が、ばらばらにほどけてしまった。
いくつもの布に分かれた戦闘服の切れ端は、エリシャの手足に絡みつき、動きを止めた。
エリシャは転倒し、ヴァリアンツが群がった。
声もなく、ルカはその光景を見守るばかりだった。
呆然としていたルカも、エリシャのように押し倒され、固い岩の上を引きずり回された。
雨のような打撃にさらされる。
本能的に逃げようと、床をはいずった。
背中に鋭い痛みが無数に走る。
頭部を何度も蹴りつけられ、意識が薄れた。
消えゆく意識の中、ルカは己の死を悟っていた。
血の色に煙る視界の中を、白い花びらが揺れている。
「ルカ!!!」
鋭い叫びが、耳を貫いた。
花弁は、エリシャの手だった。
すがるように、ルカは手を伸ばした。
ふたりの手が触れあった瞬間、すさまじい光芒が洞穴の暗闇を打ち払った。
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