第33話 彼らは、まだ戦いをあきらめてはいない
倒れたエリシャに、モウンノートがとどめを刺そうとする。
ルカは、とっさに光剣を突き出した。
ほとばしる切っ先が、モウンノートを貫通する。
内部から焼かれ、その肉体は燃え上がった。
断末魔のモウンノートが、ルカを光剣で薙ぎ払った。
ルカは部屋の隅に弾き飛ばされた。
「話が違うぞ!
こいつはこっちの味方じゃなかったのか!」
エリシャを不意打ちしたヴァリアンツが、ルカに光球を放つ。
痛みをこらえつつ、ルカは光球をかわす。
戦闘服のおかげで、致命傷は免れたようだった。
下級ヴァリアンツがルカを取り囲む。
「もうやめて!
わたしは戦うつもりはないですから!」
ルカの叫びもむなしく、ヴァリアンツはルカに猛然と攻撃を加える。
すさまじい打撃の嵐に、ルカは、倒れているエリシャに群がるヴァリアンツを垣間見た。
「エリシャには何もしないで!」
光剣を伸ばした。
身構えるヴァリアンツたちを威嚇する。
「なら、お前が先に死ね!」
残った上級ヴァリアンツが、ルカに襲い掛かった。
激しく剣を撃ち交わしながら、ルカは懸命に説得を試みる。
「もう休戦するって言ってたじゃないですか!
こんなことする意味があるのですか?」
「休戦なんぞは、建て前だ!
お前らが我々にした仕打ちを、許すとでも思っているのか?
命尽きるまで、復讐するのみだ」
防戦一方だったルカは、不意に沸き起こった怒りに身をまかせた。
両手に持った長剣を、ヴァリアンツに振り下ろす。
ヴァリアンツが構えた剣ごと、真っ二つにした。
「嘘だなんて!
信じたわたしが、バカだったっていうの?」
下級ヴァリアンツを蹴散らす。
逃げようとするウェイルノート隊長を、その背中から、斬り下した。
ウェイルノートは、その場に倒れた。
逃げ散る敵を追わず、ルカはエリシャに駆け寄った。
エリシャは気を失っているだけで、重いケガはなさそうだった。
が、エミティノートは重傷を負っていた。
胴体が裂け、ピンク色の内臓がはみでている。
ルカとヴァリアンツの斬りあいに巻き込まれたためであった。
「大丈夫?
苦しくない?」
ルカはどうしていいかわからずに、おろおろとするばかりだった。
困った末に、エリシャの体を揺らす。
うめき声をあげ、エリシャは目覚めた。
「痛たた……。
どうなったの、あれから…」
周囲を見回し、エリシャは驚いた。
数体の死体が、あちこちに転がっている。
「これルカがやったの?
やるじゃない!」
賞賛するエリシャに、ルカは泣きついた。
「エミが怪我したの!」
エミティノートの傷を見たエリシャは、言葉を失った。
四肢を引きつらせながら、エミティノートは答える。
「大して痛みはないけど、体がうまく動かせないわ……。
それより、私をヴァリアンツのところへ連れて行って」
ルカの倒したヴァリアンツは、いまだとどめを刺されてはいない。
憑依した肉体を破壊されただけで、まだ床に転がっている。
内臓が見えている場所をハンカチで押さえ、エリシャはエミティノートを抱き上げた。
モウンノートは、すでに焼け焦げた炭と化していた。
エリシャを不意打ちしたヴァリアンツは、真っ二つになり、芋虫のようにのたうち回っている。
エミティノートが物憂げにつぶやく。
「彼が、本物のアックノートだったのね。
私たちの前にいたのは、偽物だったのよ。
ウェイルノート隊長も、きっと……」
ウェイルノートと思われた死体を見たエミティートは嘆息した。
「やっぱり。
本物のウェイルノート隊長はきっと別行動をとっているわ。
休戦はまやかしよ。
彼らは、まだ戦いをあきらめてはいない」
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