第26話 本当のことだけをおっしゃってください
トビヒトに、エリシャとルカは呼び出された。
「昨日捕獲したヴァリアンツの尋問を行う。
相手が相手だから、ピアリッジの立ち合いが必要だ」
三人が赴いたのは、簡素な部屋だった。
ヴァリアンツは手足のないまま、ベッドにベルトで縛り付けられている。
その体に、いくつものコードが張り付けられていた。
コードは、傍らの人の背ほどもある機械に接続されている。
すでに、白衣を着た人物が数名待機していた。
エミティノートもテーブルの上に座っている。
トビヒトと白衣の男たちが、視線を交わした。
「記録を」
白衣の男が、機械に触れた。
ヴァリアンツが声を上げる。
「亡命を認めてくれ。
エミティノート技師のように、私も地球で生きることを希望している」
白衣の男が質問する。
「あなたたちヴァリアンツのメンバーは、何人いるのですか?」
「上級ヴァリアンツは3人。
私を含む下級ヴァリアンツは100名あまり」
「上級ヴァリアンツの名前を、教えてください」
「ウェイルノート隊長、モウンノート、アックノートだ」
「間違いはありませんか?」
エミティノートに、白衣の男が確認する。
エミティノートは、ヴァリアンツに尋ねた。
「リベルノートは?」
「サガミハラで、ピアリッジに殺された」
トビヒトが口を挟む。
「待て!
情報隊で把握している人数より、十人少ないぞ?」
エミティノートが答える。
「そうね。
私の記憶だと、もう少し多く残っていたと思うけど……」
「本当のことだけをおっしゃってください。
この証言でうそをつくと、亡命は受け入れられません」
白衣の男がヴァリアンツに言う。
「本当だ!
ヴァリアンツの数はあなたたちが思っているより、少ないんだ。
死因は、あなたたちとの戦いだけではない。
いくら人間に憑依しても、何らかの原因で死んでしまうことがある。
ほとんどが、最初の憑依に失敗して死んだ。
失敗せずに憑依することができるようになったのは、ピティノートの報告書を受け取ってからだ」
トビヒトが白衣の男に目配せした。
うなずき、男は機械を操作する。
突然、ヴァリアンツの体が膨れ上がった。
同時に、その口からすさまじい咆哮がほとばしる。
苦悶に身をよじり、体にベルトが食い込んだ。
思わずルカは目をそらした。
エリシャも、眉をひそめている。
白衣の男が、操作を止めると、ヴァリアンツはぐったりとベッドに伸びた。
せわしない呼吸音が、静まり返った部屋に響く。
「信じないわけではありませんが、正確な事実のみを述べていただきたい。
もう一度お尋ねします。
あなたたちヴァリアンツのメンバーは、何人いるのですか?」
質問に、ヴァリアンツは怒りと恐怖の入り混じった声を震わせた。
「さっきも言ったとおりだ!
嘘なんかついてない!
上級ヴァリアンツは3人、下級ヴァリアンツは100名くらい!」
再び、ヴァリアンツは身もだえする。
トビヒトが白衣の男たちに聞いた。
「これって、本当に苦しんでいるのか?」
「間違いないと思いますが……」
「演技の可能性は?」
「もう少し電圧を上げてみます」
よりいっそう、暴れ狂うヴァリアンツ。
が、強力なベルトに体中を縛り付けられていては、脱出することもままならないようだった。
ルカがしゃがみこんだ。
口元を両手で押さえている。
指の間から、吐しゃ物が流れ落ちた。
エリシャがあわてて、ハンカチをルカの手に当てた。
優しく背中をさする。
「もう人数はいいでしょ!
とっとと終わらせなさいよ!
いくらなんでも、こんなの見せられたら、あたしだって気分が悪いよ!」
トビヒトを怒鳴りつけるエリシャ。
トビヒトは冷たく返した。
「じゃあ、ルカさんは部屋の外で待機してもらおう。
君だけ残ってくれ、エリシャ」
「大丈夫?
立てる?」
エリシャにつきそわれ、部屋を出るルカに、トビヒトが声をかける。
「気持ちはわかるが、TPOをわきまえて我慢することも覚えてほしいな。
ルカさんの態度は、ヴァリアンツに同情しているようにも見られかねないからね。
このヴァリアンツが憑依していたご老人の家族は、ヴァリアンツと内通していたとの疑いで、警察で今も尋問中だ。
くれぐれも、気を付けてくれ」
ルカは急に痛み出した腹部をおさえ、ドアの外にうずくまった。
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