第25話 ルカの言うことだから、聞いたんだからね?
とっさに、ルカはエリシャの手をとった。
光がルカの手のひらを焼く。
「あちち!」
「ちょ、ちょっと!
ルカ、大丈夫?」
ルカを気遣うエリシャ。
「うん、平気……ピアリッジは頑丈なんだから」
痛みを我慢して、白い煙を立ち上らせる手をひらひらと振った。
エリシャはルカを真顔で見つめた。
「どうして?」
叱られているような顔で、ルカが答える。
「……かわいそうだと思ったから」
「殺されたあたしのパパとママと弟は、かわいそうだと思わない?
あと、ルカの友達、ナオミは?」
「そ、それはみんな、かわいそうだよ。
でも、その人たちを……アレしたのは、このヴァリアンツじゃないでしょ?」
「殺したも同然だよ。
だって、こいつは今まで、あたしたちの敵として行動してきたんだからさ。
イヤイヤだろうが、ルンルンだろうが、ヴァリアンツとして人をさらったり、爆発テロをしたりしたのは間違いのない事実じゃないの。
爆発テロで死んだ人の数知ってる?
一万人くらい死んだんだからね?」
「で、でも、今はそんなことはしてないよ。
亡命したいって言ってるし」
「あとで反省したら、それまでしてきたことは帳消し?
誘拐やテロも、イヤイヤやってたから、水に流す?
だったら、その被害にあった人に対する償いはどうなるの?
やられ損ってこと?」
「何もしないとは言ってないじゃない!
情報をくれるって話でしょう?」
「それは別の話だよ。
だいたい、情報くれるってのが、死んだ人に何の関係があるっていうの?
死んだ人は何も言わない、何もできない。
だから、どうでもいいってことなの?」
「そんなことない!
でも、償いが殺されることだけだとも思えないよ」
「死んでいく人の気持ちはあたしたちにはわからない。
でも、死ぬってことは、生きてるものにとっては、一番つらいことじゃないの。
だから、殺した償いは殺されるしかないってこと」
「そんなこと言ってたら、どこまでも殺しあいしかないじゃない!
どっちかが、いなくなるまで」
「そうだよ。
あたしたちとヴァリアンツは、もう絶対に仲良くなれない敵同士なの!
助けるなんてない、和解なんてありえない」
「……それは、わたしは……違うと思う。
殺し合いって、ひどいことだけど、それでも、もし仲良くなれるなら、その方がいいと思う」
「そんな風に、死んだナオミが思ってくれるといいけど」
「ナオミなら……きっとわかってくれる。
わたしは、そう信じてる」
真剣なルカの面持ちに、エリシャは根負けした。
ふと、笑みを浮かべる。
「……わかったよ、ルカ。
そこまで言うなら、こいつは生かしておくね。
けど、これくらいはさせてもらうから!」
エリシャは光の剣を縦横に巡らせた。
ヴァリアンツの手足が切断された。
胴体だけのヴァリアンツは、苦痛に呻きながら、礼を言う。
「あ、ありがとう……」
「お礼なら、あの子に言って!」
エリシャはぶっきらぼうに言葉を吐き出し、立ち上がる。
「怒ってる?
そんなつもりじゃなかったけど、ごめんなさい……」
機嫌をうかがうルカに、エリシャは言う。
「ルカの言うことだから、聞いたんだからね?」
「ほ、ほんとにごめんね」
申し訳なさで委縮するルカに、エリシャは肩をすくめた。
「恩に着せるつもりはないけどさ」
エミティノートは、とりなすように言った。
「まあ、これでこれからはやりやすくなるでしょう。
彼の持っている情報は、きっと有用よ」
「だといいけど」
エリシャは複雑な思いをふっきるように、大きくため息をついた。
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