第27話 もうピアリッジやってけないかも
尋問から解放されたルカは、部屋に戻るなり、両親にテレビ電話をかけた。
モニタに両親の顔が映る。
いつも二人はルカに微笑んでくれる。
「お父さん、お母さん、元気?」
『昨日電話したばかりじゃないの。
何かあったの?』
母親がルカのしょげた様子に気付いた。
「なにもないよ。
それより、認知症のおじいちゃんがいたお家の人が、警察に捕まったってホント?」
両親は顔を曇らせ、目を見合わせた。
母が言う。
『知ってるの?
気邑(きむら)さんのこと』
「やっぱりそうなんだ……もしかして、怒ってた?
ピアリッジがヴァリアンツを見つけたから、捕まったって」
『いや……それがね』
答えにくそうに母が言った。
『それどころじゃなかったよ。
わたしたちも今日、気邑さんの言うことが本当かどうか、証明してくれって言われて、会ったんだけど、ご主人に。
もうそれが……ひどく酔っぱらったみたいにふらふらしてて、横に警察がいたんだけど、その人が聞いたことしか言えないの』
「え? え?
なにそれ」
『わからないけど、なんか変な薬を飲まされてたんじゃないの?
自白剤とかなんとか』
『おい、もうそれくらいにしろ』
父が母をたしなめる。
『でも……ちょっとひどかったでしょう。
よだれまでたらして……ぞっとしたね、あんなふうになるなんて』
『つまらん話をするな、せっかくルカが電話してくれてるんだから』
母の話に、ルカはショックを受けた。
重苦しい気分に押しつぶされそうだ。
言うまいと思っていたが、つい口を滑らせた。
「わたしも、昨日捕まえたヴァリアンツに、さっき会ったんだ。
電気とか流されてたよ。
すごく苦しそうだった」
『……まあ、ヴァリアンツはしょうがないだろう。
連中のせいで、日本はめちゃくちゃになっちまったからな。
俺も知り合いが何人も死んだし、できるなら、この手でぶっ殺してやりたいくらいだな。
気邑さんもとばっちりを食ったようなもんだ』
父が、憎々しげに言う。
「そうかもしれないけど!
……あのヴァリアンツって命乞いしてたんだよ。
だから、かわいそうって思って。
殺されそうなのを、助けられてよかったって思ってたのに。
なのに、あんなひどい目に合うなんて……そんなつもりじゃなかったんだけど」
『あなたが気にすることじゃないでしょ。
捕まえてよかったじゃない。
早くヴァリアンツが全部消えてくれたらせいせいするのにね』
『そうだな。
一刻も早く平和になってくれないと、ルカとも直接話すこともできないし。
平和になったら、ディズニーランドでも行こう、久しぶりにみんなで』
ルカはうつむいた。
「もうピアリッジやってけないかも」
しばしの沈黙ののち、両親は笑い声をあげた。
『また始まった。
でも、ピアリッジはやめたりできないって自分で言ってたじゃないの』
『怪我でもしたのか?
腹が立つことでもあったら、俺からも国に一言、言ってやるさ。
話してみなさい』
「……そんなんじゃない。
でももう、ダメかも」
『つらいことは、他の人に任せて、自分は後ろに引っ込んでいたらいいでしょう。
マジメに考えすぎだと思うけど』
『そうだな。
適当に危険がないくらいにサボってりゃいいよ。
ルカはよくやってる』
ルカはモニタにすがるような目を向けた。
「やめちゃダメなの?」
気まずそうに両親は黙る。
『急にやめるっていうのも、国だって困るだろう。
とりあえず、ヴァリアンツが絶滅するまで、そんなにかからないって聞いたから、もう少しの辛抱だよ』
『そうよね。
正直、外はまだいつ爆破テロがあるかわからないし、もし私たちがシェルターから出ることになったら、考えたら怖いものね』
ルカは無表情にモニタを見つめていた。
ひきつった顔を、なんとか微笑ませる。
「なんてね、嘘ウソ。
……ちょっと今日は疲れてるみたい。
また明日電話するね」
『ああ、ゆっくり休んでな』
『またね』
ルカはベッドに倒れ込んだ。
いきなり身を起こす。
「お父さんもお母さんも、全然わかってない!!!」
暗くなったモニタに、枕を投げつける。
枕は跳ね返って、床に落ちた。
***
ルカがまんじりともせずに、ベッドに横になっていると、ノックが聞こえた。
答えないでいると、ドアがそっと開く。
「眠れないの……一緒に寝させて」
エリシャの声だった。
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