第21話 あたしたち、ピアリッジの力は、きっと愛
わらわらと物陰から下級ヴァリアンツたちが湧いて出た。
「雑魚の相手をしてる暇なんかないの!!!」
エリシャの両手がまばゆく輝く。
猛然とヴァリアンツに襲い掛かった。
ルカも、光球をヴァリアンツたちに放つ。
立て続けに爆発が起こり、あたりはもうもうたる煙に包まれた。
かすむ視界の中、ぎらつく光が縦横無尽に駆け巡る。
風が煙を払った時には、下級ヴァリアンツはすべて骸と化していた。
身を寸断されながらも、いまだうごめくヴァリアンツの肉塊を、ルカは手のひらから放つ光条で丁寧に焼いてゆく。
黒く縮み上がり、蒸発する様子は、同じように燃え尽きたナオミを思い起こさせた。
エリシャはルカの腕を引っ張った。
「ヘリなんかで来たら、当然あたしたちが来るってバレるよね。
すでに待ち伏せされてるよ!」
あたりは閑静な住宅街である。
住民は避難済みであった。
二人は道路の真ん中から外れ、一戸建ての家を囲む壁の陰に隠れる。
辺りは静けさに包まれていた。
エリシャはサンダルを脱ぎ、遠くに放り投げる。
アスファルトに落ちる音が聞こえた。
その時、足音がかすかに伝わってきた。
家の陰に、何かがいた。
素足で、エリシャは足音の方向へ走った。
「そらぁ!!!」
建物ごと水平に剣を走らせる。
壁に深い傷が穿たれた。
屋根の上に、ヴァリアンツが飛び上がる。
エリシャとルカも、屋根に飛び乗った。
堂々たる体躯のヴァリアンツが光剣を構えた。
つくば市でエリシャとあいまみえた敵だった。
エリシャは臆することなく、まっすぐ敵に向かった。
両手の剣をすさまじい勢いで、くりだした。
「そらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらぁ!!!」
ヴァリアンツとエリシャはめまぐるしく剣を打ち合わせる。
周囲を警戒していたルカは、音もたてず背後から忍び寄る新手を発見した。
両手を組み合わせ、数メートル近くもある光の長剣を発現させる。
奇襲に失敗したヴァリアンツは、ルカが振るう剣の間合いに入れず、光球を飛ばした。
剣をひるがえし、ルカは光球を打ち払う。
一方、ヴァリアンツと剣を交わしていたエリシャは転倒した。
屋根の上で足場が悪いこともあり、一度切断された脚が思い通りに動かなかったためであった。
エリシャは、背後のルカにぶつかってしまった。
悲鳴を上げ、からみあって屋根に倒れる二人。
そこへ、好機と見た二人のヴァリアンツが襲い来る。
なすすべもなくエリシャとルカはヴァリアンツを見上げる。
来たる最期の瞬間を恐れ、二人は互いに身を寄せ合った。
その瞬間、強烈な光の輪が二人から広がった。
すさまじいエネルギー波の放出だった。
ヴァリアンツが弾き飛ばされる。
屋根にすり鉢のような穴が開いた。
崩れる家のがれきに埋まりながら、ルカとエリシャはついさっきの現象に驚いていた。
いや、強烈なエネルギー放出は、一瞬だけではなく、今この瞬間も続いていた。
エリシャは目を輝かせる。
「きっと、あたしたちが接触したら、光がすごく強くなるんだよ。
絶対、そう!
これなら、あいつらなんかすぐに倒せる!」
ルカの手を握り、がれきをかき分けて、エリシャはヴァリアンツを探す。
すぐそばに、再度攻撃を加えようと、ヴァリアンツが身構えていた。
光剣をエリシャの頭上に振り下ろす。
エリシャはまっすぐ手を伸ばした。
その先から、まばゆい光の束がほとばしる。
ヴァリアンツの体は、真っ二つに引き裂かれた。
エリシャはもう一人の姿を探す。
ヴァリアンツはピアリッジの異変に驚愕していた。
エリシャの形成した光の剣は、通常時の数倍にも膨れ上がる。
膨大なエネルギー塊を、エリシャはヴァリアンツにたたきつけた。
すんでのところで、ヴァリアンツは圧倒的な攻撃を避けた。
「まさか、共鳴現象が起こるとはな。
だが、お前らを消す手段は戦いだけではない。
いずれ、この礼はする……覚悟して待っていろ」
吐き捨てるように言い、後方へと飛び下がる。
「逃がすか、バーカ!」
追うエリシャ。
が、ヴァリアンツの光球に阻まれる。
ヴァリアンツは、気配を消して、逃亡した。
「……なんか強そうなのを逃がしちゃったね。
わたしが、足手まといになったかも……」
ルカが暗い声音でつぶやく。
エリシャは明るく笑った。
「そんなことナイナイ!
ルカのおかげで、助かったもん。
二人いたから、あんなに強くなれた。
あたしたち、ピアリッジの力は、きっと愛だから!」
ルカは思わず笑みを浮かべていた。
「そうかも……ううん、そうだよね」
エリシャは感激のあまり、ルカに力いっぱい抱きついた。
この時点で、二人はほとんど全裸であった。
「あたしたち二人なら、きっと無敵!
愛の力って、すっごく素敵!!」
顔を上げ、エリシャはルカに口づけようとする。
が、ルカは申し訳なさそうに、顔をそむけた。
「あ、あの、そういうのはちょっと。
わたし、あんまり人にそういうのしないというか。
その、ご、ごめんなさい」
エリシャはぽかんと口を開いて、ルカを見た。
がっかりした気持ちを隠し、照れ笑いをする。
「あ……そっか……なんかテンション上がりすぎちゃって」
「うん。
いいけど、なんか、ごめんね」
気まずさに耐えつつ、ルカは謝る。
「いいって、いいって。
気にしないで。
でも……」
「なに?」
身構えるルカに、エリシャはそっと言った。
「手をつなぐくらいはいいよね?」
ルカはほっとして、気軽にうなずいた。
「やったー……」
幸せな状況のはずなのに、なぜだか涙がにじんでくるのを、エリシャはどうにかこらえた。
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