第14話 いままでの安全なんて、思いこみにすぎなかったってこと

「振動炉の爆発事故を起こしたヴァリアンツを発見した。

 人間を乗り換えながら、逃亡中だ」


トビヒトが説明する。

エリシャ、ルカ、トビヒトは目的地へ向かうヘリに乗っていた。


辺りは闇に包まれている。

現時刻は、20:10であった。


「エミティノートさんがすでに現地にいる。

 君たちの到着まで、待機中だ」


「どこ?」


エリシャが尋ねる。


「つくば市だ。

 筑波研究学園都市にも、次元振動炉の試作機が存在する」


「なんでそんなにいっぱいあるわけ?」


「次元振動炉の製作自体は、さほど難しくなかったらしい。

 が、作っては見ても、動かない。

 燃料が不明だというんだな。

 とりあえず、手当たり次第に試してみることにしたそうだ。

 それで、つくば市にも持ち込まれたという経緯がある」


「あとどのくらいあるんですか?」


と、ルカ。

トビヒトは首を振った。


「日本で確認されているのは、5、6基。

 しかし、海外にはもっとあるはずだ。

 ヴァリアンツの技術情報は公開されているからな。

 専門家の話では、その気になれば、小型の振動炉なら、その辺の町工場でも作れるんじゃないか、という話だ」


不安げにルカは口を閉ざす。

エリシャは苦笑した。


「そこらじゅうに爆弾があるってこと?

 もう手に負えなくなってるんじゃない?」


「現状、ヴァリアンツでなければ振動炉の稼働はできない。

 だからこそ、奴らを確実に発見、対処することが必要なんだ。

 ピアリッジの存在意義は、これまでになく高まっている」


エリシャは真面目な顔のトビヒトをからかう。


「それって、あたしたちをはげましてんの?」


「そうだ」


トビヒトは表情を崩さないまま、答えた。



***


トビヒトの無線に連絡が入った。

状況をエリシャとルカに説明する。


「標的は、現在ワンボックスカーで走行中。

 4名が乗車していることが確認されている。

 現在、常磐自動車道を降り、一般道を北上中。

 まもなく警察が封鎖している地域に入る。

 このまま対象に接触するぞ」


「了解!」


「わかりました」


ヘリは大きくかしいで向きを変える。

高度を落とし、地上に接近する。


普段とは異なり、がらんと空いた道路を、一台の車が走っていた。


「あれね!」


エリシャが目を輝かせる。

ヘリのドアを開けた。


「頼むぞ」


トビヒトの返事と同時に、エリシャはためらいなくヘリから飛び降りる。

ルカが続いた。


エリシャは空中で光の剣を発生させ、ワンボックスカーを真っ二つにした。


二つになった車は左右に分かれ、横転する。

火花を散らしながら、回転しつつ道路の端に衝突した。


エリシャは両脚で着地し、バランスを巧みに取りながら、道路を滑る。

その背後で、勢いを制御できずにルカが転がっていた。


車が爆発した。


吹きあがる炎が、暗闇を払う。

いつの間にか路上にいた3人の男女が、エリシャとルカに相対した。


乾いた破裂音が聞こえた。


ヴァリアンツの一人が、拳銃を発砲していた。


「痛ったい!」


弾が命中したルカが、悲鳴を上げる。

その隙に、エリシャが銃を持っているヴァリアンツに迫る。

光剣をひと薙ぎし、ヴァリアンツを両断した。


残りの2人が、体から光を放った。


「本命はそっちね!」


エリシャは敵の真っただ中に飛び込んだ。


ヴァリアンツたちは、いずれも体の各所から火を噴いていた。

未強化のため、ヴァリアンツの放つエネルギーで自らの肉体を焼いている。


光の剣が空を裂き、ぶつかり合った。


ルカが加勢しようとすると、不意に背後から声が聞こえた。


「待たせたな!」


次の瞬間、すさまじい衝撃がルカを襲った。


巨大な火球が、ルカにたたきつけられたのである。


強烈な痛みにうちのめされ、ルカは倒れ伏した。


背後から出現したのは、新たなヴァリアンツだった。

両手から光を放っているが、体に崩壊の兆しはない。

小柄だががっちりとした男の肉体は、強化済であった。


燃えている車の残骸から、さらに一人がはい出てくる。


「乗り換えに手間取った。

 これは、慣れが必要だ」


燃え尽きた衣服を貼りつかせた長身の男が、エリシャの前に立ちふさがる。

体に火をまとわりつかせている二人のヴァリアンツに声をかける。


「お前たちは、逃げろ。

 こいつらは我々が始末する」


「はっ!

 了解しました、隊長!」


二人は、道路わきに姿を消す。


前後をヴァリアンツにはさまれ、エリシャは不敵に笑った。


「いっぺんに来てくれて、手間がはぶけたね。

 とっととかかってきなさいよ!」

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