第10話 ほんのすこしお手伝いしようとしただけなのに
ピティノートは手をルカに向けた。
閃光がまたたき、ルカを撃ち倒す。
無防備に一撃を食らったルカは、廊下に転がった。
戦闘服が吹き飛び、露出した胸元が赤く焼けている。
ひどい火傷であった。
激しい痛みに、身もだえする。
「大丈夫!?」
「な、なんとか……」
気遣うエミティノートに、ルカは気力を振り絞って答えた。
衝撃を受け、全身が震えている。
意のままにならない手足を叱咤し、立とうとする。
さらなる攻撃を加えようとするピティノートは、しかし、その伸ばした手を降ろした。
エリシャから受けた傷が広がり、肩から腹部までが断裂したのだ。
肩ごと、腕が床に転がる。
「もう、この体は使えんか……」
床に伏し、理科室の奥へと這い進んだ。
その先に、理科室の実験用具をしまう部屋がある。
ピティノートはその中へ入った。
中では、かすかに人の呼吸音がする。
それが乱れた。
薄暗い中、ぐったりと身を横たえているのは、ナオミであった。
ナオミは、目だけを動かし、血まみれのピティノートを見上げる。
「も、もうやめて……」
かすれた声が、恐怖で震えていた。
ピティノートは、鋼鉄のような無表情な目で、ナオミを見る。
「貴様のせいで、なにもかもが水の泡だ。
その償いはしてもらうぞ」
ピティノートに憑依された須月レベカの異常を政府に伝えていたのは、ナオミだった。
長期休暇ののち、須月レベカは以前とは別人のようになっていた。
ある日、理科室に何かを運んでいるレベカを目撃し、異変を察したナオミは、政府に状況を報告したのである。
それ以来、政府の指導もあり、レベカの奇行とも見える行動を、その都度、政府の窓口に知らせていた。
が、ついに今日、窓口に電話しているところを、ピティノートに取り押さえられたのだった。
ピティノートの拷問を受け、すべてを自白させられたのち、ここに放置されていたのである。
おびえきり、ナオミは体をよじる。
両手足は、ピティノートによって、骨折していた。
恐怖にゆがんだ顔がひきつる。
絶望のあまり閉じたまぶたから、涙があふれ出た。
「お、お願い、殺さないで、なんでもしますから……お願い……」
ピティノートは残った手で、ナオミの頭をつかむ。
「恨むなら、お前の仲間を恨め」
ナオミの頭に、ピティノートの指がめり込んでゆく。
ナオミののどから、しゃがれた悲鳴がもれた。
が、それも長くは続かなかった。
彼女にとっては、ピアリッジであり、なにより親友であるルカへのささやかな協力のつもりであった。
しかし、その代償はあまりにも高くついた。
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