第6話 大事なものに限って、いつも見つからない

一方、校庭に着地したルカは、懸命に走っていた。


エリシャが屋上をエネルギー球で破壊した時、大勢の悲鳴が校舎から聞こえてきたのだ。

どうやら、人質は一か所に集められているらしい。


悲鳴の源と思しき窓は、南校舎の四階であった。


校庭から中庭に回り、ルカは窓へとジャンプする。

ヘルメットから窓に突っ込んだ。


ガラスが割れ、ふたたび何人もの悲鳴がルカの鼓膜を震わせる。


「大丈夫!

 わたし、ピアリッジだから!

 助けにきたの」


教室には、なんにんもの生徒が監禁されていた。

みんなルカの姿を見て、安心したのかそれぞれに歓声や泣き声を上げる。

ルカの見知った顔はいない。


人質をかき分けて教室を横ぎり、ルカは外から封鎖されたドアを易々と破壊した。

ドアの外に積みあがっていた椅子や机を廊下に蹴散らす。


廊下に誰もいないことを確認すると、人質たちに声をかけた。


「つかまってるのは、みんなだけですか?

 他には誰もいないの?」


生徒の一人が答える。


「わからない。

 授業中にいきなり須月先生が入ってきて、輪駄先生を……」


生徒が教壇を指さす。

ルカは一目見て、目をそらした。


スーツ姿の男性が、血まみれで倒れている。

首から上がなかった。


「それから、あたしたちをここに閉じ込めたの。

 他がどうなってるか、わかりません」


人質リストの数とここに居る人数を照らし合わせると、確かに人数が大幅に少ない。


……なにより、ナオミがいない。


「今なら安全だと思うから、早く学校の外に出て!」


生徒たちに言って、ルカは他の教室に急いだ。


***


北校舎の壁に、大穴が開いた。


そこから、もつれあったエリシャとロボットに憑依したヴァリアンツ転がり出る。

校庭に落下した。


落ちた衝撃で、エリシャとヴァリアンツは地面に投げ出された。


素早く立ち上がったエリシャは、ヴァリアンツの頭部に鋭い飛び蹴りを見舞った。


丸い頭部がひしゃげ、片目がこぼれおちる。


が、大ダメージを受けた個所は見る間に新たな装甲で覆われ、ほとんど一瞬で回復してゆく。


これが、ヴァリアンツを無敵のものにしている驚異的な再生能力であった。

通常兵器では、ヴァリアンツを一時的に傷つけることはできても、殺すことはできない。


エリシャが着地する寸前、ヴァリアンツの巨大な両手が、エリシャをとらえた。

猛烈な圧力がエリシャの体を圧迫する。


そのまま、つぶされるかのように見えたエリシャだったが、突如、ヴァリアンツの両腕が力を失った。


肩から、腕が切断されている。

太い両腕がエリシャごと、どさりと地面に落ちた。

切り株のような傷から、もうもうと白煙が立ちのぼっていた。

再生する気配は見られない。


体に食い込んでいたヴァリアンツの指を振り払い、エリシャは立ち上がる。

爆発するように戦闘服が燃え上がり、飛び散った。


あらわになったエリシャの肌から、淡い光が放たれていた。


「テキトーに流そうと思ってたけど、ちょっとムリがあったかな」


不敵にヴァリアンツを見据える。


両腕を失ったヴァリアンツは、戸惑っているようだった。

進むことも下がることもできず、その場で二の足を踏む。


エリシャは相手の逡巡を見逃さなかった。


握りしめたこぶしの先から、数メートルもの光がほとばしる。

あたかも長大な剣のように伸びた光を、エリシャはまっすぐ振り下ろした。


ヴァリアンツは真っ二つに裂け、地面に転がった。


ピアリッジの放つエネルギーのみが、ヴァリアンツの肉体に真のダメージを与えることができるのだった。


二つに断ち切られながら、いまだうごめくヴァリアンツを、エリシャは光の剣で薙ぎ払う。

ヴァリアンツは、地面にわずかな痕跡を残して、蒸発していた。


ふと、エリシャは上空を見上げる。


見慣れない、派手な色合いのヘリコプターが旋回していた。


ヴァリアンツの大量誘拐事件以来、首都圏は非常事態宣言下にある。

まして、事件の起こっているここで、自衛隊や警察が所有する以外のヘリコプターが飛行するというのは、珍しいことだった。


「またあとで、トビヒトに聞くか」


つぶやいて、エリシャは次の敵を求め、校舎へと戻った。

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