第5話 パラシュートなしのスカイダイビングって爽快!

「ヤダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


空中で絶叫しながら、ルカは手足をばたつかせる。

猛烈な風に翻弄され、なすすべもなく体が回転する。


頭上では、エリシャが高らかに雄たけびを上げていた。


「イヤッホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


巧みに手足を操って風圧を利用し、するするとルカのそばに近づいた。

その戦闘服をつかむ。


「まず、敵をさがそ!

 見つけたら、エミにしゃべってもらって、ダメだったらすぐに倒す。

 これしかない!」


エリシャの助けで、ルカの姿勢は安定する。


混乱している頭を必死に整理し、ルカはなんとか口を開いた。


「え? え?

 ダメだったら、倒すって……?

 人質は?」


「状況しだい!

 よーするに、エミがうまくやればいいんだって!」


エリシャの首にしがみついているエミティノートが抗議する。


「うまくいくとは思えないわ!

 ピティノートはかたくなだから、私の手に負えないかもしれない」


不安が高まるルカ。


「もし、うまくいかなかったら?」


笑顔でエリシャは答える。


「だーから、状況しだい!」


「待って待って!

 そんなので大丈夫なの?

 みんなの安全は……」


「作戦会議は終わりね」


言うなり、エリシャはルカから手を放す。

もう地面は目前まで迫っていた。

着地点は、校舎の屋上だった。


エリシャの手に、まばゆい光が閃いた。


着地寸前、エリシャは火球を下にたたきつける。

轟音とともに、校舎の屋上が爆発した。


爆煙がエリシャを包み込む。


熱を持ったがれきの上に、エリシャがふわりと着地した。

爆風をクッション代わりにしたのだ。


一方、ルカは爆風にあおられ、校舎の屋上から外れて、校庭に落下した。


「めちゃくちゃよ……!

 こんなことして、ピティノートを刺激したら……」


あたりに充満する砂塵を嫌って、エミティノートは大きな目を閉じた。


エリシャが出現した場所は、北校舎の三階である。

四階の床は、屋上の爆発によって穴が開いていた。


目の前には、使用されていない教室があった。

窓側のカーテンはすべて閉ざされ、教室はうす暗い。


エリシャは静まり返った廊下を眺める。


「どこにいるのかな……エリは近くに仲間がいたらわかるんでしょ?

 とっとと、場所教えて」


意識を集中させるように黙り込んでいたエミティノートが悲鳴を上げた。


「すぐそばにいるわ!

 逃げて!」


同時に、教室のドアが木っ端みじんになった。


飛散する破片を避けるように、エリシャは背後へ下がった。


教室の入り口から、重々しい足音ともに、大柄な人間が現れる。


いや、正確には人間ではなかった。


近年、商店の店頭などに設置されることの増えている、広告用のロボットであった。


「あ、ペッパー君じゃない。

 あたし、前ほしかったんだよね~」


が、エリシャの前に立つロボットは、元の姿をとどめてはいなかった。。

ヴァリアンツが憑依した無機物は、あたかも生物であるかのように、その体を自在に変化させる。


ロボットの身長は二メートル近くにまで増し、横幅も同様に広がっている。

もともと脚部のなかった下半身も、二足歩行できるように強靭な両脚が生えていた。


かろうじて、頭部のみが面影をとどめている。


丸い頭が動き、大きな目がエリシャを見据えた。

V字型の微笑を浮かべた口から、野太い声が言葉を紡ぎ出す。


「おい、テメー、ふざけてんじゃねえぞ!

 わけもわからず俺らを追い回しやがって、いい加減キレちまったぜ!

 憂さ晴らしにこれから鍋パーティーやっからよぉ。

 その食材はテメーだ!!!」


爆笑しそうなのをこらえ、にやにやしながら身構えるエリシャ。


ふと見ると、ヴァリアンツの背後に、今回の事件を起こしたヴァリアンツ、ピティノートの姿があった。

ウェーブした長い黒髪の20代後半の女性。

元、須月レベカであったヴァリアンツであった。


エリシャの背中にしがみついていたエミティノートが叫ぶ。


「ピティノート!!

 少しお話をさせて!」


無言でピティノートは背を向ける。


さっとエミティノートは床に飛び降り、すばやくロボットに憑依したヴァリアンツの足元をかいくぐる。

エミティノートに追いすがった。


ロボットのヴァリアンツはエミティノートをとらえようとした瞬間、エリシャはロボットの足を蹴りつけた。

太もも周辺に命中したエリシャの足は、ロボットの表面を覆っていた黒い鉄のような装甲を飛散させる。


よろめいたヴァリアンツが、苦しげな声を上げた。


「とっとと来なさいよ。

 口だけの、ウドだってことを、思い知らせてあげるから」


異様に明るい光を帯びたエリシャの眼が、ヴァリアンツを見上げた。

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