第4話 オムレツを作るには、タマゴを割らなくちゃね!
「ちょっと待ってください。
今日は今までと少し状況が違います」
エミティノートを抱いたトビヒトが言う。
「これまでは、発見したヴァリアンツをせん滅する任務ばかりでしたが、今日の相手は、人質を取っています。
場所は、西調布中学校」
ルカは息をのんだ。
逆に、エリシャははしゃいだ声を上げる。
「あたしたちの学校じゃない!
あと三日で登校日だったけど、課題もらいに行く手間省けたね」
「人質って……誰ですか?」
恐る恐る発したルカの問いに、淡々とトビヒトが答える。
「2-A組の生徒が主です。
脱出した生徒から聞き取りした結果、人質のリストを作成済です」
「見せてください!」
トビヒトのタブレット端末に、人質リストが表示された。
ルカの眼は、ひとつの名前にくぎ付けになる。
にわかに、心臓が激しく鼓動する。
田奈科ナオミ。
ルカの親友も、囚われの身になっているのだ。
「憑依されていた人間は、須月レベカ、女性、28歳。
西調布中学校の教員であり、独身、一人暮らしのため身近に親族がおらず、発覚が遅れました。
以前より、不審に思った生徒からの通報があったため、監視対象としていたのですが、確定に至る直前に事件が起こりました」
「あなたたちは、いっつもそう。
ちっとも役に立たないんだから。
こないだなんて、ヴァリアンツじゃくて、ただの人間だったし」
明るい口調でエリシャはトビヒトに当てつける。
ルカの脳裏に嫌な記憶がよみがえってきた。
一週間ほど前、トビヒトの指示によって、ルカとエリシャはヴァリアンツ認定された人間を襲撃した。
標的が一戸建ての自宅に帰ったころを見計らい、不意打ちをかけたのだ。
初めはルカが標的に相対した。
しかし、あわてふためき、腰を抜かして逃げようとする中年男性の姿を見て、どうしてもルカは攻撃することができなかった。
エリシャはルカを押しのけ、男を文字通り粉砕した。
あまりにも凄惨な光景に身動きできないルカをしり目に、屋敷に単身突入したエリシャは、数分後、血まみれの姿で戻ってきた。
『家族は消えてるって話だったけど、みんないたよ』
結局、数人の死骸ごと屋敷は焼却された。
翌日のニュースによると、犠牲者は政府の要人とその家族であり、火の不始末による火事によって、全員焼死したとのことだった。
トビヒトは全く動じた様子もなく、話を続ける。
「エミティノートさんからの情報を参考にすると、今回発見されたヴァリアンツは、ピティノートという個体だと推測されます。
皆さんにそん色のない戦闘力を備えていると思われます」
エリシャは意地悪く言う。
「人質はどうすんの?
全員救出するっていうの……いまさら?」
トビヒトは、腕の中にいる猫に視線を落とした。
「現地にて、エミティノートさんに、ヴァリアンツとの交渉をお願いします。
人質を解放するように説得していただきたい。
時間制限があります。
14:30までの30分」
「短すぎるわ!」
エミティノートが抗議する。
エリシャは興味深そうにトビヒトをまじまじと見つめる。
「……国連平和維持軍が来るんでしょ?
それまでに片付けて、ヴァリアンツの秘密は日本政府が握っておきたい……ってね」
トビヒトは、わずかに顔をこわばらせた。
エリシャの指摘は、図星だったのだ。
鉄面皮のトビヒトが、感情を動かす様子を満足げに眺め、エリシャはにっと笑った。
「なら、とっとと行きましょ!
ほら、学校が見えてきたじゃない。
この際、多少の無茶はしょうがないよね」
エリシャの言う通り、眼下に彼女らの母校が広がっている。
突然エリシャは身を乗り出し、ルカが座っている側の扉を強引に開いた。
猛烈な風が吹き込む。
驚くルカから、シートベルトを引きちぎった。
「何するの、エリシャ……!」
ルカの言葉が終わらないうちに、エリシャはルカをヘリから突き落とした。
悲鳴とともにルカは空中に放り出される。
「お仕事に行ってきま~す!」
トビヒトの腕からエミティノートをかっさらい、エリシャはルカの後を追った。
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