会話

「お、おはよう」黒いジャンパースカートを着て、リカはおずおずとアメリに声をかけた。いまだその態度の端々からリカの、アメリに対しての遠慮が窺い知れる。アメリはそれを気に止めたそぶりを見せない。

「ああ、おはよう。婦長さんはなんて?」ぱらぱらと捲っていた紙束を置いて、アメリはリカに目を向けた。

「このままいけば、身体の心配はいらないって。でも、記憶は」湿った眼が上目づかいにアメリを見た。アメリは柔らかに笑う。

「大丈夫だよ。また少しずつ思い出していけばいいさ。魔法の使い方だって私が教える」いっそ不可解なほどに優しい目をしてアメリはリカを慰める。リカは少し居心地の悪さを感じるとともに、アメリのこの優しさはどこから来るものなのかを考えた。しかし、それはリカにはわからない。

「わたし、事故にあうまではどんなだった? 婦長さんはアメリに聞くといいわ、って」アメリの赤い目が一瞬どろりと濁ったことに、リカは気付かなかった。

「そうだね……強かったよ。この辺に出る敵なら怖いものなしだった」瞬きをして、向き直ったアメリの目には先ほどの陰りはもうない。リカはアメリの言葉に首をかしげた。

「ほんとう? 嘘なんて思わないけど、その……うまく信じられなくて」伏せた睫毛はその瞳に影を落とす。

「うん、信じられないならそれでもいいんだ。別に今すぐ思い出して戦えって言ってるわけじゃない。そうだね、ただ、知っていてほしかったんだ」アメリはにっと口の端を釣り上げた。

「うん。これは私が言いたかっただけ!」誇らしげに笑った顔にリカは少し楽しい気持ちになる。

直後、すっと温度の下がった表情は、リカの角度からはやはり見えなかった。

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