会話
「お、おはよう」黒いジャンパースカートを着て、リカはおずおずとアメリに声をかけた。いまだその態度の端々からリカの、アメリに対しての遠慮が窺い知れる。アメリはそれを気に止めたそぶりを見せない。
「ああ、おはよう。婦長さんはなんて?」ぱらぱらと捲っていた紙束を置いて、アメリはリカに目を向けた。
「このままいけば、身体の心配はいらないって。でも、記憶は」湿った眼が上目づかいにアメリを見た。アメリは柔らかに笑う。
「大丈夫だよ。また少しずつ思い出していけばいいさ。魔法の使い方だって私が教える」いっそ不可解なほどに優しい目をしてアメリはリカを慰める。リカは少し居心地の悪さを感じるとともに、アメリのこの優しさはどこから来るものなのかを考えた。しかし、それはリカにはわからない。
「わたし、事故にあうまではどんなだった? 婦長さんはアメリに聞くといいわ、って」アメリの赤い目が一瞬どろりと濁ったことに、リカは気付かなかった。
「そうだね……強かったよ。この辺に出る敵なら怖いものなしだった」瞬きをして、向き直ったアメリの目には先ほどの陰りはもうない。リカはアメリの言葉に首をかしげた。
「ほんとう? 嘘なんて思わないけど、その……うまく信じられなくて」伏せた睫毛はその瞳に影を落とす。
「うん、信じられないならそれでもいいんだ。別に今すぐ思い出して戦えって言ってるわけじゃない。そうだね、ただ、知っていてほしかったんだ」アメリはにっと口の端を釣り上げた。
「うん。これは私が言いたかっただけ!」誇らしげに笑った顔にリカは少し楽しい気持ちになる。
直後、すっと温度の下がった表情は、リカの角度からはやはり見えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます