第28話 成長
「焦らなくていいんだよ。」
数日この部屋に来なかった息子が、優しく声を掛けている。
娘は妻から引き継いだ好奇心で、新しい扉をどんどん開いていくが、それが実は過去の扉であることにはまだ気付いていない。
しかし、私も息子も、娘の想像が行き届かないところがこんなふうになるとは思わなかったので、暫くスクリーンを見ながら困惑した。
何もない真っ白な世界。
その先に踏み出すことすら躊躇われるほどの白。奥行きも何もない。もしかしたらすぐ手が届く距離にある白壁なのかもしれないが、そう思って伸ばした手を、体を、飲み込んでしまうような異空間そのものなのかもしれない。
この場合、無知は命取りだった。
娘はぎょっとした表情をして、その後、大人しく扉を戻した。
それでも、この出来事のおかげで息子のヒントの意味の半分を理解したようだ。
しかし、ここからが重要。
この正解にたどり着かなくては、つまり、夢に住んでいることを理解させなくてはならない。
そして理解した後に受け入れさせる必要もある。
理解し、そのままを望むならそれまで。
それが娘の出した決断となる。
私はどちらに転ぼうとも、元々娘の面倒は私が死んでもなお、最後まで看るつもりだったので、今は二人の成長と変化にただただ喜んでいる。
私には何も出来ない。
今更変化を望むなんて。
娘が夢の世界で生きることを黙認したのは、この私だ。
私がこれまでのこの子の人生を決定付けたといっても過言ではない。
目が覚めて一番に伝えたいこと。
それは謝罪と感謝だ。
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